シンプル

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和巳さんが遠い。 距離の話じゃない。本当は日本にいた時から遠かった。誰よりも近くにいるけど、実際はまるで近付けない、近付くことが許されない人。 和巳さんといると惨めさが増す。 でも今は違うはずだ。お互い大人になって、立場も変わって、俺達を比較する人はどこにもいない。なのに未だ劣等感を覚えるのは、俺が……俺の心に根付いてる葛藤がそうさせているんだ。 死ぬまでこんな劣等感を抱いて、彼と付き合っていくのか? 「鈴。俺の目を見て」 「っ!」 無理やり顔を上げさせられ、目が合う。 こうして見るとやっぱり、昔とは違うんだと自覚させられる。 俺達は大人になって変わった。無駄に色々考える生き物になったんだ。頭を使うし、裏の裏まで読むし、めんどくさいプライドも持つようになった。 だから何とか助かろうとジタバタする。 周りを気にして、自分を押し殺してる。 「周りをよく見てごらん。俺達を見張ってる人なんてどこにもいないよ」 頬に両手を添えられて、何回か瞬きした。 彼の言葉で何となく分かったからだ。俺は未だに、親や親戚の評価を恐れてるんだって。 俺が馬鹿なせいで、親が笑われる。家族って、本当にめんどくさい繋がりだと思えた。雁字搦めに縛られた、頑丈な血の鎖で繋がれている。 義絶しても、それはそれで嘲笑のネタになるんだろう。「やっぱり」って思われて、「出来の悪い人間だった」って笑われる。それで終わりだ。 劣等感はえぐい。心を抉るほどの力を持っていて、終わりのない恐怖を植え付ける。 「和巳さん」 父が怖い。世間の目が怖い。 「俺、自分が大っ……嫌いです。貴方のことが好きなのに、貴方に嫉妬してる。何で俺は……貴方と違って、こんなに駄目なのかって」 「鈴……」 自暴自棄になって頭を下げる。顔を見せたくないという気持ちもあった。こんな最低な告白をして、どんな顔を見せればいいのか分からないから。 でも和巳さんは俺の反応なんてお構いなしで。強く抱き寄せ、唇を塞いできた。 「ん……っ」 それはこのタイミングでする事なのか。……ちょっと戸惑ったけど、舌は深くまで口腔内を愛撫した。歯列をなぞり、全てを知ろうとするような動きで潜り込んできた。 息を奪われ苦しくて、彼の肩を必死に押し返す。それでもしばらくキスは続いた。 キスが愛情表現なら、どうしてこんなに苦しいんだろう。どうして、求めれば求めるほど窒息して、心臓が止まりそうになるんだろう。
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