シンプル

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「和巳さん……?」 頭が真っ白になる。何をするのか訊く前に、仰け反りたくなる痛みに襲われる。彼の指がゆっくり、だけど確実に自分の中に潜り込んできた。 恐怖と混乱、それに痛みが同時にやってくる。もはや羞恥心は一欠片もない。彼の手を掴んで押さえても、指はどんどん中へ入ってくる。 「んぅっ」 抗議しようとした口も、最終的には塞がれた。仰向けに寝かせられ、両脚を閉じようとしても手は離れてくれない。和巳さんは俺の上に被さって、手を動かしていた。 何で……っ。 痛いっ……けどそれ以上に驚いているのは、どんどん広げられて中を掻き回されていることだ。自分がやっても入るのに時間がかかって、第一関節までがやっとだったのに。 今はもう、彼の長い指が一本入ってしまっている。信じられないし、どうしたらいいのか分からない。 「鈴」 熱い息が当たる。 「もう諦めるの? ……本当に、俺にめちゃくちゃにされてもいいって思ってんだ」 「……っ」 そうだ。和巳さんになら……それもアリかもしれない。 自然と、受け入れる体勢をとっていた。 従兄弟になれない。友人にも、恋人にもなれない。お世話係にすらなれない。笑ってしまう。 今までのことを振り返ったら力が抜けた。この感覚は忘れられない。全てを諦めてしまった時の脱力感だ。もういいやって思ってる。 でも、それならどうして涙が出るのか。 「和巳さん……っ」 ポロポロと落ちる雫とともに、気付いたら彼の名前を呼んでいた。 胸が張り裂けそうだ。俺はこんなにも身勝手で不安定で、弱い存在なのに。彼の手は優しくて、俺の頭を撫でている。声も表情もいつもと変わらない、優しい和巳さんだった。 「目は擦っちゃだめだって言ってるでしょ?」 目元を押さえた俺の手を掴み、彼は軽くキスした。 「何回言っても直らないんだから。もう直す気ないんでしょ。ほんとに悪い子」 ほんとは結構怖かった。和巳さんをすごい怒らせてしまったんじゃないかって。今度こそ嫌われたんじゃないかって────思ったのに。 「こんなに鈴のこと好きなのに……一番大事なところには届いてない。伝わってないんだよね」 和巳さんの瞳も、潤んでいた。汗のせいかもしれない。そう思おうとしたけど、やっぱり声は震えて、弱々しくて。すぐに俺の胸に顔を沈めてきた。
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