散り散り

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自分からこんな風に彼に甘えるのは初めてかもしれない。後ちょっと、……後ちょっとがどんどん伸びて、時間は随分過ぎてしまった。 ソファに二人で寝転がって、互いの体温を確かめ合う。温もりに絆されて眠ってしまいそうだった。許されるならこのまま彼の腕の中で眠ってしまいたい。数十秒葛藤していたものの、壁に掛かった時計を見て飛び上がった。 「ごめん、和巳さん。俺そろそろ大学行かないと……!」 「あ。やば、ごめんね」 どこか寂しそうに言う彼を見ると、やっぱり出掛けたくない気持ちになる。でも大学はサボるのはもちろん、遅刻するわけにもいかず、ため息を飲み込んだ。 「終わったら、すぐに帰るから」 「ありがとう。気をつけて行きな」 またキスをして、今度こそ手を離した。 昨日のことは多分一生忘れられないなぁ……。 家を出て、電車を乗り継ぐ。大学へ向かう道すがら、やたらとカップルに目が留まった。駅でも店でも街道でも、幸せそうに寄り添い歩く二人がいる。それをつい、目で追ってしまう。 変だった。今までも散々見てきた光景なのに、今日の通学路はいつもと違う。 和巳さんが変わった。いや、俺が変わった……のか。 特に何か解決したわけじゃないのに心は軽い。 何かが変わった気がした。目に見える景色が鮮やかなのは、ずっと胸の中に燻っていた想いを全て吐き出したからかもしれない。 そして、それを彼が受け止めてくれたから……。 洗ったばっかの柔らかい髪を軽く摘んで、空を見上げた。太陽の光が反射してる。 ────今日の空は、本当に青い。
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