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Pink Gold
街のあちこちから、ジングルベルが聞こえてくる。綺麗な電球で煌びやかデコレーションされた街路樹は、このときとばかりに街を飾り立てている。街を行き交う人々はみんなどこか足早で、だけどどこか幸せそうな顔をしている。
そんな街の中を、私は一人俯き加減で歩く。ジングルベルを聞くのも、イルミネーションを見るのも辛い。それらが聞こえたり見えたりする度に、私の胸は締め付けられるように痛む。
私の胸元にはピンクゴールドのネックレスが光る。三年前、芳樹から貰ったクリスマスプレゼント。今も肌身離さず着けている。もう、芳樹はいないのに。
私は人混みを避けるように自宅を目指す。階段を駆け下り、改札を抜け、満員の地下鉄に乗り込む。できるだけ周りの音が聞こえないように、耳にはヘッドフォン。流れてくる曲は、芳樹が好きだったリストの“愛の夢第三番”。それから、ショパンの“木枯らしのエチュード”と“大洋のエチュード”。三曲聞き終えたところで、地下鉄は私の目的の駅に着いた。
住宅街にある駅を出ると、街中とは違って、どこからもジングルベルは聞こえないし、電球でデコレーションされた街路樹もない。私はゆっくりと歩き、二十分ほどかけて自宅まで戻った。
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