要素指定コース

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要素指定コース

 要素指定コースは、小説に必ず指定の要素を入れさせるものだ。これは、完全お任せコースで無限に作られる小説に縛りを加えると考えてもいいし、シオリの言う通り、範囲を絞り込むと考えてもいい。  ところで、()()()()()とは言っても、AIに「その時の気分」とかの感情や「思いつき」とかの気ままな思考があるとは考えにくく、()()()()()()で要素を抽出してストーリーを組み立てるはず。その規則は「これが今の流行だろう」と読者受けすると思われる要素をふんだんに取り入れるという、実にシンプルなロジックなのかもしれないが、おそらくAIのバックボーンとして()()()()()()が存在するはず。  しかし、流行の要素てんこ盛りのストーリーを提案されても、読み手によってはそれが必ずしも「今読みたいもの」とは限らない。  要素指定コースは、自分の読みたい内容を要素を使って限定させ、AIに小説を書かせるコースである。 「具体的には、どう指定するコースなの?」 「それなら、テーブルの上に2次元バーコードが浮かび上がっていると思うから、それにスマホをかざして」  ミキに促されてアイボリー色のテーブルに目を落とすと、綺麗に磨かれた表面に名刺大の白い画面がいつの間にか表示されていて、中央に2次元バーコードがあった。  言われるままにスマホのカメラでそれを読み取ると、数秒後に『AI新書店別館 注文書』というサイトが開いた。なるほどと思ってスマホを横に()けてもう一度バーコードを見ようとすると、すでに白い画面は消えていてテーブルには自分の頭の影しかなかった。 「要素の説明するより、それ見た方が早いから」  確かにそうだった。サイトのメニューから選んで表示された要素指定コースの提供する要素には、舞台、主人公の特徴、その他登場人物の特徴、作品の特徴があったが、猛烈な分量がある。設定画面が下に長くて、スクロールが必須だった。  舞台は、国名と時代と場所が自由に選べる。例えば、日本のみ指定、日本で近世を指定、日本で近世で宿場町を指定、という組み合わせが可能だ。たいていはプルダウンから選べるが、なければ「その他」を選んで具体的に入力する。  主人公の特徴は、名前、性別、年齢、性格、職業を決められる。これは5つとも省略できない。赤ん坊の場合、職業はもちろん「無職」となる。名前のない年齢不詳の雄猫を主人公にする場合は、名前は「なし」、性別は「オス」、年齢は「不明」、職業は「猫」となる。性別不明の人外は、性別が「不明」、職業「人外」となる。  その他登場人物の特徴も主人公と同じだが、登場する脇役を全て指定する必要がある。モブキャラは、もちろん指定不要である。  作品の特徴は、異世界召喚、異能力、バトル、スローライフ、スリリング、ハッピーエンド、バッドエンド等々、種類が100を優に超える。これを複数組み合わせることが可能だ。ただし、ハッピーエンド、バッドエンドの両方を選んだ場合、AIがどう判断するのかは予想が出来ないが。 「いやー、作品の特徴がこんなにびっしりあるとは驚いたわ」  画面を何度かスクロールさせながら、シオリが目を見開く。 「でしょ、でしょ?」 「なんだか、AIが作る小説に自分が関与する感じがして面白い。これが他の人にも読まれるのでしょう、24時間後に?」 「そう。出来た小説が面白かったら、『自分のおかげでこれが出来たんだ』って得意顔になるよ」 「もう一つのコースは、何だっけ?」 「筋書き指定コース。それは画面を一つ戻って、もう一つのメニューを見ればわかる」  シオリは、早速戻るボタンをタップした。
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