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行動分析
客を個人ごとに分析している。それは、ネットで商品を注文する際に普通に行われていること。なので、シオリはミキの発言に対して、何ら不安を抱くことはなかった。ただ、「監視」という言葉だけが気になった。おそらく、綿密に行動の履歴を取って分析している行為が「監視」に思えたのだろう。
「ミキはさ、もし監視されているのが事実だとしても、この店で本を注文するの?」
「するよ」
即答するミキに、シオリは意外だという顔をする。
「なんで? 監視って、良くないことが起こらないよう、見張ることでしょ?」
「……そうか。そっちに行っちゃうな。だったら、観察? ちょっと意味合い的に弱め。でも、結果的におんなじ」
「観察ねぇ……。具体的に言うと、情報収集から始まって、情報解析して傾向を分析して。……何を言っても同じね。早い話、細かく見られていることには変わりないわ」
「でもね、そのおかげで、好みにしっかり合わせてくれて、満足いく小説を書いてもらえるし、的確なレコメンドの恩恵を受けられる。それって、いいことじゃない?」
「そうね」
「いくら人工知能って言っても、一回こっきりの情報収集で、客が何に満足するかなんてわかるわけがない。人間って、そんな単純じゃないし。……結局、ずーっと行動を追いかけるしかない」
「確かに」
「それと、ちゃんと監視もしている」
「どんな?」
「筋書き指定コースで、タイトルやあらすじにヤバいことを書くと、執筆を拒否される」
「試したことあるの?」
「利用規約に書いてある」
「なぁんだ……」
「だって、そんなこと書いたら、きっと記録に残るし。調子に乗っていたずらを重ねていると、出禁になる」
「それも?」
「それは書いてある。警告を無視して禁止行為を繰り返した場合、会員資格を剥奪し、永久追放って」
「永久――追放!?」
「『再入会をお断りします』だから、永久追放っしょ」
「なんだ、ミキの読み替えか。ビックリした。……ちゃんと、利用規約読もう」
ここでミキは、ウーンと背伸びをした。
「それはそうと、次どうする?」
「他のコースを試してみる。ミキは?」
「今日はSF祭りにする」
「祭り?」
「SF漬けってこと。さっきのは当たりだったし、今日のAIは期待できそう」
ミキは親指を立ててウインクをした。
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