行動分析

1/1
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ

行動分析

 客を個人ごとに分析している。それは、ネットで商品を注文する際に普通に行われていること。なので、シオリはミキの発言に対して、何ら不安を抱くことはなかった。ただ、「監視」という言葉だけが気になった。おそらく、綿密に行動の履歴を取って分析している行為が「監視」に思えたのだろう。 「ミキはさ、もし監視されているのが事実だとしても、この店で本を注文するの?」 「するよ」  即答するミキに、シオリは意外だという顔をする。 「なんで? 監視って、良くないことが起こらないよう、見張ることでしょ?」 「……そうか。そっちに行っちゃうな。だったら、観察? ちょっと意味合い的に弱め。でも、結果的におんなじ」 「観察ねぇ……。具体的に言うと、情報収集から始まって、情報解析して傾向を分析して。……何を言っても同じね。早い話、細かく見られていることには変わりないわ」 「でもね、そのおかげで、好みにしっかり合わせてくれて、満足いく小説を書いてもらえるし、的確なレコメンドの恩恵を受けられる。それって、いいことじゃない?」 「そうね」 「いくら人工知能って言っても、一回こっきりの情報収集で、客が何に満足するかなんてわかるわけがない。人間って、そんな単純じゃないし。……結局、ずーっと行動を追いかけるしかない」 「確かに」 「それと、ちゃんと()()もしている」 「どんな?」 「筋書き指定コースで、タイトルやあらすじにヤバいことを書くと、執筆を拒否される」 「試したことあるの?」 「利用規約に書いてある」 「なぁんだ……」 「だって、そんなこと書いたら、きっと記録に残るし。調子に乗っていたずらを重ねていると、()(きん)になる」 「それも?」 「それは書いてある。警告を無視して禁止行為を繰り返した場合、会員資格を剥奪し、永久追放って」 「永久――追放!?」 「『再入会をお断りします』だから、永久追放っしょ」 「なんだ、ミキの読み替えか。ビックリした。……ちゃんと、利用規約読もう」  ここでミキは、ウーンと背伸びをした。 「それはそうと、次どうする?」 「他のコースを試してみる。ミキは?」 「今日はSF祭りにする」 「祭り?」 「SF漬けってこと。さっきのは当たりだったし、今日のAIは期待できそう」  ミキは親指を立ててウインクをした。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!