ホームページ上での個人情報登録

1/1
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ

ホームページ上での個人情報登録

 スマホに目を落としているミキが、サッと上目遣いになった。質問の意図がバレたシオリは、「別に」とつぶやいてうつむき、視線を合わせないようにする。  ニヒヒと笑ったミキは、顔を下げたシオリの表情を覗き込む仕草をして、「では、教えて進ぜよう」と優越感を含んだトーンで語り始める。 「VRMMOにしてごらん」 「ヴィーアール……?」 「Virtual Reality Massively Multiplayer Online。仮想現実大規模多人数オンラインって奴だけど、言葉でなんとなく意味はわかるよね?」  本当はおぼろげにしか知らないシオリだが、うつむいたまま頷く。そうして、要素としてメニューにあった「VRMMO」を選択した。  さて、ジャンルは「恋愛」だが、SFの要素である「VRMMO」を入れるとどうなるのか。シオリには、全く想像が付かなかった。まあ、それも面白いかと思ってこのまま進めることにし、舞台を日本の近未来の高校に設定した。  高校にしたから、「同級生」「文化祭」とかの要素も入れてみた。「いじめ」は指先が画面に触れそうになったが、自分を小馬鹿にした女子たちの顔が浮かんできたので指を離した。  一通り設定し、画面のタップで注文を終えたタイミングで、ミキが声をかけてきた。 「追加で飲み物頼む?」  待っている間にお茶でも飲みたいなと思っていたシオリは、やはりミキは人の心が読めるエスパーか何かかと思えてきた。 「飲み物だけなら注文してもいいけど……また3冊増えるのよね?」 「ここで注文して、家帰ってから読んだら?」 「URLが消える――」 「新作執筆の注文は出来なくなるけど、書いてもらった本は読めるよ。旧作の本も買える」 「どうやって?」 「この店のホームページに行って、会員ページへのリンクがあるから、そこからログインすれば『本棚』っていうのがあって、出来上がった本が並んでいる。ってか、説明するより、見た方が早い」  それから、ミキはAI新書店別館のホームページのURLをシオリに教え、それを(じか)()ちさせ、会員ページから携帯番号、メールアドレス(携帯、PC)、住所、氏名、ニックネーム、生年月日、パスワード、それを忘れた時用の秘密の言葉、好きな小説のジャンルを登録させた。 「これで、次回からメールアドレスとパスワードだけでログインできるから。あっ、さっき教えたURL、ブクマしてね。検索エンジンで『AI新書店』なんてキーワード入れても出てこないから」  作業を終えたシオリは、フーッと息を吐いた。 「結構登録させられたけど、個人情報さらけ出しね」 「見方を変えればそうだけど、お金が絡むから、このくらいは普通じゃない? 会員ページから執筆済みの本とか他の書店でも発売済みの本を注文出来るし、支払いにはこの店内で登録したクレジットカード番号が流用されているし」 「この店に来る前に、ここで会員登録できるの?」 「出来ないよ。この店に入った――つまり、セバス君に登録された客だけ、そのホームページが表示されるから」 「徹底しているのね……」 「ちなみに、セバス君に会員登録されていない客――検索でここが見つからない客――が、このAI新書店別館のホームページのURLを入手したとして、(じか)()ちすると、どうなっていると思う?」 「普通の本屋さん?」 「工事中。だから、会員ページへのリンクなんか、当然ない。……この店は、秘密基地みたいなものさ」 「だから、隠れ家……」 「やっとわかった?」 「でも、なぜそんなことが出来るの? 検索して誰が見ているのかまで、わかるの?」 「わかる。だって、店内でスマホをアクセスしているでしょう? その時に、スマホの端末IDだかの情報が裏で抜き取られる。検索の時、同じスマホで検索するから、裏でID情報が飛んで識別できる」 「マジで……」 「この推測、先輩の受け売りだけど」  シオリは、チラッとセバス君の方を見ると、彼は正面を向いたままジッとしている。瞬きすらしない。なんだか、急に人間味が薄れてきた。  その時彼女は、彼自身がこの店のサーバーのように思えてきた。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!