人工知能が夢落ちを勧める

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人工知能が夢落ちを勧める

 シオリが入力したあらすじは、以下の通り。 「とある高校に、(かける)という男の子の転校生がやってきた。主人公の()()は、彼に一目惚れをする。付き合い始めて、デートも何度か行った。ある日、(かける)に『自宅に遊びに来ないか?』と誘われたので()()が行ってみると、そこは自分の家だった。実は、(かける)は並行世界から来ていて、しかも、(かける)は並行世界の()()だった」  こうなったらどういう風に人工知能が解釈するだろうかと、興味津々で注文してみる。ところが、すぐにメッセージが表示された。 『かなり無理のある設定です。夢落ちでいいですか?』  並行世界で女の子が男の子になっているというのが無理なのか。シオリは、(かける)(きよ)()()に変えてみた。デートは、買い物に変更。しかし、 『かなり無理のある設定です。夢落ちでいいですか?』  さて、どうしようかとシオリが考えあぐねていると、ミキが身を乗り出した。 「お困りのようですな」 「困ってない」 「拒否られてるでしょ?」 「拒否られてない。夢落ちだって――」 「夢落ち? ……ああ、そっちね」  どうやら、ミキも経験済みのようだ。 「なんで夢落ちになるの?」 「夢は自由奔放だからね。全てを解決してしまう魔法のオチさ。無理な設定があると、そっちに倒される。なんかヘンだぞ、ああ、夢かって」 「フーン」 「どれ、どんなあらすじにしたか、見せてみそ」 「やだ」  シオリは、スマホを両手でつかんで胸の方へ引き寄せ、体をねじる。 「どこか間違っていると思うよ。よく読んでごらん」 「こちらが指定した通りに書いてくれないの?」 「そうしたいなら、自分で小説書いて、自分で投稿サイトに投稿すればいい」 「そっか……」 「例えば、未来から来た自分と会話するって、矛盾すると判断するらしく、このAI作家は夢落ちを提案してくるよ。その辺りは、許容するというデータを持っていないみたいだね」 「ヤバいことじゃなければ、何でも書けるかと――」 「理解不能ってか、持っているデータにないことは書かないみたい。人工知能も万能じゃないってことさ」  ミキは、そう言って肩をすくめた。
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