読みたい本をAIがその場で書いてくれる

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読みたい本をAIがその場で書いてくれる

 トイレから急いで戻ってきたシオリは、ミキの口から『隠れ家みたいな本屋で本が出来るまでの間にコーヒーが飲める』この店のことを早く知りたくて、熱心に耳を傾けた。特に『本が出来るまでの間に』の部分が、本屋に印刷所でも併設されていて、インクの匂いがする刷り上がりほやほやの本が出てくると思えたので、期待に胸が膨らんだ。  だが、それは大いなる勘違いだった。焼きたてのパンを売るパン屋を本屋に応用したものではなかった。  そんな甘っちょろいものではなく、もっと凄い、未来の夢のような話だったのだ。  ここの本屋は、AI――Artificial Intelligence、人工知能――が、客の注文を受けてから本を執筆して、客がコーヒーを飲んでいる間に電子書籍の形でスマホに提供してくれるのである。  この注文には、次の3つのコースがある。  1)完全お任せコース:ジャンルと作品の長さを指定する。後は全てAIにお任せ。どんなストーリーかは、読むまでわからない。タイトルもAIが決めてくれる。  2)要素指定コース:ジャンルと作品の長さの他に、舞台、主人公の特徴、その他登場人物――脇役――の特徴、作品の特徴などの要素を指定する。それらを取り入れた作品をAIが書いてくれる。これも、ストーリーは読むまでわからないが、指定する要素によってはある程度想像が付く。タイトルは、これもAIが決める。  3)筋書き指定コース:要素指定コースに、あらすじを指定するもので、それに沿ってAIが書いてくれる。あらすじを細かくすればするほど、出来上がるストーリーは事前におおよそわかる。タイトルは、AIお任せと自分で決定を選ぶことが出来る。  もちろん、その場で執筆するサービスだけではなく、すでにAIが執筆済みの物から選んだり、出版社が扱っている電子書籍から選べるサービスもある。普通の書店に並んでいる書籍の購入、配送サービスもあるが、これは本のネット注文と何ら変わりない。この店としては、オマケのサービスだ。 「だから、ミキが『マジでヤバい本屋』とか『凄いサービスをしてくれる本屋』って言ってたんだ」 「ねえ、驚いたでしょう?」 「確かに、サプライズだわ」 「ま、店員がアンドロイドってとこからして、このお店の凄いとこなんだけど」 「厨房でコーヒー淹れている人は?」 「顔見たことないけど、渋いマスターのアンドロイドかも」 「で、ミキはこの3コース、全部試してみたの?」 「もちのろんよ」 「読んでどうだった?」
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