AIが執筆した小説

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AIが執筆した小説

 シオリは読み始める前に、一度スマホの画面から目を離した。そして、作者が人間ではなく人工知能が書いた小説をこれから読むにあたり、高まる期待を意図的に抑え込んだ。それは、期待が大きければ大きいほど、乖離がある場合にショックを受けるからだ。ならば、出来るだけ低い方がいい。  これから読む小説は、お金を出すくらいだから、ネットに溢れている機械翻訳された文章ほどひどくはないだろう。でも、人間の手によって書かれていないから、人の温もりが感じられない文章かもしれない。他の単語や表現の方が意味が通るのに、と読んでいてそればかり気になる文章が多々混じっていることも許容しないといけないかも。  評価は中の下から下の上、あるいは5段階評価にして2辺り、ぶっちゃけ「いまいち」を想定して心の準備が出来たシオリは、軽く(うなず)いてスマホに目を落とした。  タイトルは「桜坂」。  コンピュータが選んだまともなタイトルに、ハッとする。「桜が生えた路傍」みたいに、へんちくりんなタイトルだったら笑ってやろうと思っていたが、初っぱなから裏切られた。早くも、良い意味での期待外れか。でも、深呼吸をして「割と普通」と思うように努める。  登場人物は、高校一年生の(むこう)(さか) (たくみ)(さくら)() ミク。  二人は幼稚園からの幼馴染みで、とても仲が良かった。  小学六年生の時に巧が引っ越すことになる。その際に彼が渡してくれた紙片に書かれた住所へミクが手紙を出すも、宛名人不明で戻ってくる。  高校一年生になったミクのクラスに転校生がやってきた。それは、ひどくやつれた巧だった。  再会を喜ぶミクが自分の名前を名乗ると、巧は「桜庭ミク? 誰?」と冷たい目で言葉を返す。昔の思い出話をしても、ミクのことが記憶から消えているらしく、(いぶか)しがり背を向ける。  ところが、ある日――、  シオリは、最初は「ベタな展開だ」と思って読んでいたが、いつしかAIが書いたことも忘れ、物語に引き込まれていった。
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