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隠れ家の喫茶店
6月のある日、シオリはミキから買い物に誘われた。
雨上がりの天気が気持ちよく、ウキウキする気分で待ち合わせ場所に行ってみると、フロントポケットのオールインワン姿のミキがいて、ミディアムヘアを掻き上げた後で手を振り、妙にニヤニヤしている。
一方、ショートボブのシオリは、Tシャツの袖口をロールアップし、デニムで目一杯お洒落したつもりだが、ミキのコーデには敗北感を感じていた。
「ねえ、シオリ。マジでヤバい本屋が出来たよ。行ってみる?」
「ヤバい本屋なら行かない」
「たぶん、違うこと考えている気がする」
「売ってる本のこと? ミキが勧めたBL本よりヤバい?」
「そっちか……。じゃなくって、凄いサービスをしてくれる本屋」
「そのヤバい? なら、読んでいると肩と首をマッサージしてくれる」
「あー、そこそこ、きく――って集中できないだろ!」
「足湯に入れる」
「うー、気持ちいい――って違あああああう!」
「じゃあ、何?」
「お茶が飲める」
「なーんだ、喫茶店併設? そんな本屋、すでにあるわよ」
「ちっちっちっ、本が出来るまでの間にコーヒーが飲める」
「はあ? 印刷所に併設した喫茶店?」
「惜しい! もっと凄いから。百聞は一見にしかず。まずは、レッツゴー!」
「ちゃんと教えなさいよ」
「隠れ家みたいな本屋で本が出来るまでの間にコーヒーが飲める」
「隠れ家以外、さっき言ったこととかぶってる」
「行きゃわかるって」
「――って、背中を押さないの!」
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