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VRMMOの新作のタイトル
アイスレモンティーを軽めに2度ほど喉へ流し込むと、ミキには旧作を読んでいる素振りを見せて、実際は「VRMMO」をキーワードにAIが過去に執筆した全作品から絞り込み検索をしていた。
すると、検索結果が100件近く表示されたのにはビックリした。これら全てを、人工知能が客の注文に応じて執筆したのだ。注文されたということは、いかに人気があるかを意味する。
シオリは、「VRMMO」の検索結果にお勧めキーワードとして「バトル」があったので、それを指定して結果を絞り込んでみると、ほとんど減らなかった。言い換えると、作品のほとんどがバトルなのだ。
(VRMMOって、恋愛と無関係なのかしら……)
試しに、「バトル」ではなく「恋愛」で絞り込んだところ、なんと0件。そこで今度は、「恋愛」をキーワードに過去作品を全件検索し、「VRMMO」で絞り込んだが、これも0件。
(マジで? 私が最初!?)
VRMMOファンから見て非常識な作品を作らせてしまったという後悔と、SFの無知に対して恥ずかしいという思いと、実はニューウェーブを自分で創ったという自慢が交錯する。
そろそろ10分経過という頃になって、ミキがトイレへ行くために席を立った。彼女の背中を見送ったシオリは、スマホへ目を落とすと、ちょうど作品の完成メッセージが表示された。早く読みたいので、バックグラウンドの注文は完全お任せで、また「恋愛の短編」を指定した後、シオリは鼓動が高鳴るのを感じつつ新作を開いた。
タイトルは――、
『紺碧の海と紅のガレオン~恋するスカーレット艦長の冒険記~』
「はあっ?」
シオリは思わず声を上げてしまい、慌てて口を押さえる。幸い、こういうときに茶々を入れるミキはドアの向こう。首を伸ばして、他の客に聞かれたかと心配したが、誰も衝立の上から顔を出していない。セバス君が飲み物の注文かと思ったらしくシオリの方を向いたので、彼女は亀のように首を引っ込めた。
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