筋書きの難しさ

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筋書きの難しさ

 登場人物が主人公も憧れの先輩も同級生もリアルでは全員女性なのに、ゲーム内では主人公のアバターであるスカーレットを除いて全員男性。ゲーム内ではイケメンに恋をして、リアルでは(みず)()先輩に恋心まで抱く。確かに、恋愛路線は貫かれている。  もし要素のVRMMOを指定しなかったら、引き裂かれた姉妹とは知らず、憧れの先輩に恋心を抱く物語になっていたのだろうか。人工知能がどのようなスパイスを加えたストーリーに変えるのか、興味あるところだ。  ゲーム内で暴れ回るヨシツネも主人公と同じ学校の生徒らしいが、そこはリアルバレはせず、謎のまま終わっているので推理するのも楽しい。生徒会会長選挙で落選した見栄っ張りの候補者か、相次ぐ部員の脱退で廃部に追い込まれたメカオタクの部長か、それともタカビーなお嬢様か。  シオリがそれを推理していると、すでに次の新作が完成していたメッセージを見過ごしたことに気づいた。  彼女は、今度は筋書き指定を試してみようと画面を開いたが、あらすじの入力欄を見つめたまま腕組みをしてしまった。 「何? あらすじが決まらないとか?」  ミキにめざとく見つかったシオリは、腕組みをやめて画面の上に指を置く。 「いや、頭の中でストーリーを組み立てて、今決まった――」 「そんな顔じゃなかったけどね。シオリのいつもの困ったーって顔。眉間に皺が寄ってたし」  実に、鋭い観察眼の持ち主だ。 「そんなことない」 「じゃあ、書いてごらんよ。今すぐ」  降参である。実際、シオリの頭の中は、真っ白な原稿用紙の状態だった。ミキの前では隠し事が出来そうにない。でも、多少は抵抗を試みる。 「書こうと思ったけど、人工知能がちゃんと認識してくれるか、心配になってきただけ」 「ホントかなぁ?」 「ホントに」 「自分の文章力が心配だって? 本好きなら、駄目駄目な日本語なんてあり得ない」 「…………」 「大丈夫だよ。ここのAI、よほど変な文章でなければ認識して意図を理解してくれるから」 「そう?」 「あらすじなんて、140文字以内のつぶやきで十分。試しに書いてごらん」  ミキに促されて、シオリは少し考えた後、スマホの画面をタップしてあらすじを入力し始めた。
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