執事のアンドロイド

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執事のアンドロイド

「こちらの席へどうぞ」  店員に案内されて、入り口から一番遠い席へミキと一緒に向かったシオリは、右側は衝立で頭しか見えないので、左側の客の様子を横目で見る。途中の3つの席に4人いて、コーヒーカップが4つあり、全員がスマホに目を落としていた。  斜め上から見下ろす角度からは、のぞき見防止の対策を施した画面に何が映っているのかまではよくわからないが、誰も指の操作をしていなかったことから、読み物か動画か。  ここが本棚のない本屋だとすると、心地よい音楽に囲まれてコーヒーをすすりながら、好きな本を電子書籍で読んでいる、と思えば納得がいく。  出入り口に背を向けて着席したミキは、店員に「私が説明しますから」と告げると、彼は笑顔で一礼して去って行った。  テーブルを挟んで向かい側に座ったシオリは、彼がどこへ行くのだろうと目で追っていると、出入り口の左横へ音も立てずに歩いて行って、クルッと壁に背中を向けて立った。何だか、若い執事が指示を待っているような構えだ。  アンドロイドの割には動きが滑らかで、ぎこちないところは皆無。「彼は実は人間です」と紹介されても疑わないだろう。  彼の立つ位置の左に真四角の窓があり、木製の扉が閉まっていた。きっとあの向こうが厨房なのだろうと思っていると、ちょうど扉がスーッと上向きに開いた。その開く音で反応したのか、彼は静かに窓の方へ移動する。  窓の向こうは白衣に包まれた体が胸から腹まで見えていて、湯気が立つコーヒーカップが皿に乗ってスッと差し出された。店員はそれを受け取ると、衝立で隠れている隣の列の客へ運んでいった。この動作もよどみない。  本当にアンドロイドなのだろうかと一挙手一投足を注視していると――、 「ここのシステムを説明するよ」 「は、はい」  ミキの小声に、シオリは観察を遮られた。
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