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完全お任せコース
全コース制覇のミキは、得意げな顔で指を立てたり手を広げたり、アクションを交えて語り始めた。
「完全お任せコースは、例えば『恋愛の短編』という注文でOK。時代設定もストーリーも登場人物もお任せなので、どんなお話かは出来上がらないとわからない。だから、恋愛なら何でも読みたいって人向け」
「それで、出てくるのはどんな感じの小説?」
「人気作品のいいとこ取りしてるなぁって感じ」
「いいとこ取りって、小説の切り貼り?」
「そうじゃなくって、人気作品にめっちゃ触発されているなぁって感じるところがあるって意味。総じて言えるのは、王道の展開で、お約束もちゃんとあり、ナニコレ的なものはない」
「ある意味、無難?」
「手堅い書き方で攻めてくるって感じ。だって、最初の1ページでブラウザバックされたら、AIだって面白くないだろうし」
「そのAIに感情があればね。……ところで、いくら王道路線でも、当たり外れってないの?」
「あるけど、それって、ちょうどその時に読み手が何に期待していたかが大きい要因だと思う。読む時の気分って、作品の評価を左右するじゃない? 外れたぁって思う作品でも、後で読み返すと、『ああ、これもいいじゃない』って思うときがある」
「作品に評価付けられるの?」
「出来る。5段階評価で。レビューも感想も書ける。小説投稿サイトでよくあるのと、おんなじ」
「フーン。……で、料金はいくらなの?」
「税抜きで800円。ここは、飲み物はコーヒーと紅茶とソフトドリンクしかないけど、全部同じ料金で、それを頼むと完全お任せコースなら最大3冊まで書いてくれる。それらは、電子書籍としてスマホにダウンロードできる。もちろん、SDカードにコピーとか、配信・拡散は不可」
「1冊当たり、ラノベの古本並みかぁ」
「ケーキセット1400円を頼むと、最大5冊まで書いてくれる」
「へー。作品の長さって、長編もあり?」
「今んとこ、3万字以下の短編と、8万字以下の中編しかない」
「ってことは、最大40万字で1400円かぁ。安いっちゃ、安い? ……ところで、読めるのは、このお店の中だけ?」
「家帰ってもスマホで読めるよ。ただ、一度書いてくれると、24時間後に『執筆済み作品』として他の人も検索できて注文できるようになる。著作権者はあくまでAI新書店側で、それを客に譲渡するわけじゃないから、注文した人は作品を独占できないよ。……まあ、自分がいの一番に読めて、24時間自分だけが読めるって快感はあるから、気にするほどじゃないけどね」
「AIが書くなら、作家の名前は? 編集者は?」
「ジャンルと作品の傾向によって、異なる作家のペンネームが出てくる。書いているAIは1つだと思うけど、ヴァーチャルな作家の名前を割り当てているんじゃないかな? 似たような作風は同一ペンネームにしておけば、その方がリアルっぽいし。なお、編集者は固定で、ハル・シュヴァルツ。出版社はAI新書店で、著作権はそこに帰属」
「フーン。じゃあ、要素指定コースを教えて」
「早速、お任せコース試さないの?」
「私は、『現代日本を舞台にした恋愛小説』と範囲を絞りたいから、要素指定コースがいいかなと」
「どんな作品が出来上がってくるかわからないスリルがあるのに」
「ミキみたいに、どんな球でもキャッチするほど守備範囲は広くないから」
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