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 僕は罪を犯した。今その罰を受けている。 貴方が存在しないとわかっている世界で、いつまでもいつまでも貴方を探し続けなければならない。  名前を呼べと叫べど探し出すことは叶わない。砂で覆われた世界。  足を引きずり、声はかすれ、涙さえ枯れ果てた時に目が覚めた。  激しく打つ鼓動を抑え恐る恐る横を向けばそこには見知った顔があり、 心底ほっとする。夢でよかった。  抱きつく体はないけれど、頬をよせ唇を合わせることはできる……  わあっと自分の声で目が覚める。 何て酷い。飛び起きて隣を見る。 全身そろった貴方がいた。 良かった。胸をなでおろす。 「あれだろ?どうせその俺も動かねえんだろ?」  朝食の用意をしながら夢の話をした。 「どの夢が一番怖かったかわかりますか?あ、熱いですから気を付けて」 コーヒーを渡しながら言ったのに 一口飲んであちっと顔をしかめる。 熱いっていいましたよ。僕は笑う。 「あれだろ首だけの俺だろう」 「違います。あなたがいない世界です。貴方のいない人生なんて僕には何の意味もないんですよ。あなたが居てくれて良かった」 貴方は朝っぱらからとか、お前はストレートだなとか、もごもご言いながら新聞で顔を隠してしまった。 覗き見れば顔を赤くして照れている。 可愛いおじさんだ。  僕はふふっと笑って窓の外をみる。 レースのカーテンが気持ちの良い風をはらむ。 光があふれ、コーヒーの香りが漂う部屋に貴方と僕。 幸せで息が詰まりそうだ。 いい天気ですね。 さあ朝食を食べたら散歩に行きましょうかと立ち上がる。 パチリと目が覚めた。 ああ良い夢を見た。 もう一度味わうようにそっと目を閉じる。 満ち足りた幸福感はやがて激しい喪失感となり嗚咽が漏れる。 この夢を見るのは今日で100日目。 明日も明後日もずっとずっと。 僕は罪を犯した。 今、罰を受けている。 貴方のいない世界で今日も生き続ける 僕の罪状は・・・・・・。
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