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部屋の中は綺麗に整えられており、ホテルの一室程の大きさかと思われた広さは、一軒家のそれと同じ規模であった。ポカンと口を開けて中を見回す私に「 結衣、こちらへいらっしゃい 」と依子さんが私をリビングのソファへ誘導する。何故この人も私の名前を知っているのだろうか。疑問に思ったことを一つ一つ聞いて回っていてはキリがないので聞くのを止めて誘導されたソファへと腰を下ろす。ふかふかの感触が私の痛めていた体を優しく包み込んだ。
依子さんはキッチンへ行ったのだろうか、カチャカチャという食器の擦れる音がする。
「 お待たせ。あなたが来ることは知ってたよ。視てたからね。お祖母様のこと、残念だったわね 」
「どうぞ」と紅茶の入ったティーカップをテーブルに置きながらそう口にする依子さんに本日何度めかの驚きを体験した。
「 何故知っているの?っていう顔をしているわね。まずは、それを飲んで緊張をほぐしてから話しましょう。疲れたでしょうから 」
胸元まで伸ばした赤い髪。前髪はセンターで分け、吸い込まれそうなエメラルドの瞳。それを隠すかのように黒縁の眼鏡をかけている、お姉様という言葉が似合う依子さん。
西洋の見た目に似合わない和風の名前。
私が依子さんに抱いた第一印象がそれであった。
「 美味しい 」
そして、美味しい紅茶を淹れるお姉様も追加された。
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