失ったもの

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失ったもの

私が25歳になった年の冬、祖母が死んだ。 ガンで入院して、そのまま亡き人となった。 大好きだった祖父に看取られながら、眠るように安らかな最期だった。 ピーーーーー、という電子音が病室に響き、祖父のすすり泣く声と、医者の業務的な最期の時を知らせる言葉が聞こえる。 昔からおばあちゃんっ子だった私は、大人だとか社会人だとか、人前だとか、そんなの全て無視して子どものように泣きついた。 母や妹も泣いていたが、ただ静かに泣いていた。 病院中に響き渡っているであろう私の泣き声に、周りは哀れむような眼差しを向けたけれど、人の死を素直に悲しむことすらできない世の中は、とても生きづらい。
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