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「甘いな、君は。自分では行く気がなくても、当日そこへ行かざるを得ない状況になることだってあるだろう」
「ありますか?」
「あるとも。例えばその日、誰かが私のマンションを訪れたいと言ってきたらどうする?」
「断ればいいんですよ」
「なんと言って?これから私は交通事故に遭うからマンションには近寄れませんとでも言うのか?」
「なにもバカ正直に言わなくたっていいでしょう」
「バカとはなんだ」
思わず声を荒げてしまう。助手に言われたものだから余計に腹が立った。彼は慌てた様子ですみませんと言ってから、
「ただ僕が言いたかったのはですね、そんな杓子定規に言わなくてもいいってことですよ。そんな場合は適当に理由をつけて断ればいいんです。嘘でも何でもいいから」
「嘘はいかんだろ。それにな、世の中には断れない事態がおきたり、のっぴきならない事情があったりするのだ」
「そうですか?」
「そうなのだ」
だから、100日間一歩もここから出ないと決めたのだ。電話にも出ないしメールもしない。その意志が固いことを表明するために私は自分のデスクまで移動すると椅子にどっかりと腰を下ろし、ふんぞり返って腕を組んだ。
助手は私の行動をやれやれと言いたげな顔で見つめていたが、不意になにかを思いついたように「あ」と声を上げた。
「ん?どうかしたか?」
「博士。ここから一歩も外に出ないという意思は固いんですよね?」
「もちろんだ」
「と言うことはですね、今からもう一度タイムマシンで100日後を見に行ったら、あの事故はもう起こらないということにはなりませんか?」
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