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「え?」と彼は怪訝な顔をする。
「だから、事故が起きたんだ。君の言ったとおり、私が車にはねられてしまった」
「まさか博士、もしも事故が起こらなかったら、やっぱり研究室から出よう、なんてことを思っていたんじゃないでしょうね?」
即座にぶるぶると首を振ってから、
「そんなこと思うものか。私の意志は固いと言っただろう。たとえ事故が起こらなくても、100日の間ここから一歩も出ないつもりでいたのだ」
「それならどうして……」
助手は首をかしげる。私にだってわからない。事故の当日まで引きこもると決めたのにどうして事故はなくならないのか。やはり私が推測したように、直前になってマンションへ行かざるを得ないのっぴきならない事情ができたのだろうか。と言うことは、どうあがいても事故を回避することはできないのか?
いや、できる。まだ最後の手段が残っている。
「決めた」
私の言葉に助手は困ったような顔で、
「今度はなにをですか?」
「直接話をつけてやる」
「誰とです?」
「私自身だよ。事故当日の私に会って、車に轢かれるから絶対にマンション付近には行かないよう説得するのだ」
力説する私に助手は不安げな眼差しを向けた。
「でも博士、そんなことして大丈夫なんですか?」
「何がだね?」
「映画やなんかで言ってたんですよ。違う時間の自分と接触すると、タイムパラドクスが起きるとか何とかで、最悪この世が破滅するかもしれないって。現実世界では大丈夫なんですか?」
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