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おれは心中で快哉を叫んだ。
ゆるみそうになる口もとを先刻に渡されたばかりの答案用紙の束で隠す。目を閉じて奥歯を噛みしめ、湧き上がってくる歓喜を腹の底に押し留めようとする。
はたから見れば不審だろうが誰もおれに注目するでもないし構わない。教室は悲喜こもごもであり、みんな、自分や自分と仲のよい級友の結果しか気にしていない。
だがおれは違う。
自分とさして会話をしてもいない、ある級友のテストの結果を気にしていた。耳をそばだてていたのだ。
宮守(みやもり)はおれと正反対であり、言動に余裕があって、いつも涼しい顔をしている。
それなのに成績もふつうに良いと来た。飛び抜けて良いわけではないが、テストの結果もいつもおれを上回っていた。授業中もこっそり寝ていたり、それでいて当てられたらそつなく答えるみたいな、素行不良になるかならないかのラインを探しているみたいな妙な男だ。クラスの連中からは『ちょっと抜けてるモデルみたいなイケメン』の地位を獲得しているようだ。
ドラマなら主人公たりうる器だ。華がある。だからおれは意識した。
おれは小さなころから百パーセントの力で生きてきた。
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