AIと貨幣制度

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文明が崩壊した街――そう形容するのが一番適切と言えるほど、この場所は寂れていた。高いビルや家屋などの建物は半壊しており、電柱や標識はほとんどのものが折れて、地面に倒れていた。この場所に色をつけるならば、”灰色”がぴったりだろう。 「……ここの調査も何日目になるんだろうな。」 「さあ?途中から数えるのも億劫になってましたからね。」 「君……、一応、期限は決められてるんだから、数えておけよ。」 「”一応”でしょう?どうせ上の連中は気にしていませんよ。私たちがやっていることなんて眼中にありませんからね。それに、それを言うなら先生のほうも数えたらどうなんですか?」 「まあ、それも一理あるが……。一応、俺のアシスタントとして、ここに来てるわけだろ?だったら、ちょっとはそれっぽくしても良いんじゃないか?」 「これも、”一応”ですからね。別に、私がどう振る舞ったって誰も怒らないでしょう?だったら、自由にしても良いじゃないですか。」 「いや、俺が怒ると言ってるんだが……。」 「またそんなこと言って。先生が怒った試しないじゃないですか。」 「はぁ……。まあ、やることはやってくれてるから、よしとするが……。」 「そうでしょう?私は出来る女なんですから!」 「ほんと、生意気だな……。っと。」 「ん?それは何ですか?」  先生と呼ばれている人の手には、銀色に輝く丸い固形物が掴まれていた。 「これは……、硬貨だな。昔、ここで貨幣のやりとりが行われていた時に使われていたものだ。君も学校で習ったことあるだろう?」 「ああ、聞いたことあります。お金……と呼ばれていたものですよね?」 「そうだ。昔の人々はこれと物を交換していたらしい。」 「なるほど……。学校では、昔の貨幣制度の悪いところばかり教えられるんですけど、実際のところはどうだったんでしょう?」 「まあ、確かに悪いところもあると思う。この制度があるせいで、詐欺や横領などのお金が絡んだ犯罪が後を絶たなかったらしいらな。」 「そうですね。でも、悪いところばかりでもなかったんでしょう?」 「そうだな。今の制度と違って、自分の成果がはっきりとお金という物として残る。とても分かりやすいというのが利点だな。生きていくにはどうすればお金を稼げるか、これを意識すれば良かったからな。」 「今は自分の価値を”AI”が決めてしまっていますからね。物として残らない分、盗られるという心配はありませんが、抽象的すぎてどうすれば良いのか分からないということがありますからね。」 「そうだな。それに、貨幣制度の中であれば、お金を稼ぐ方法を考えれば良かったから、新しい物が生まれやすかったんだ。」 「……なんでですか?」 「今の制度では、AIがそれを価値ある物として認めなければ、自分に返ってこないからな。それまでには、かなりの時間がかかる。それだったら、既存の価値あるもの中から、自分の価値を高めようとする人が多くなってしまう。だが、昔の貨幣制度ならば、新しいものを生み出し、それの需要が出てくれば、その時点でお金として自分に返ってくる。だから、昔はどんどん開発が進んでいったんだよ。」 「なるほど……。今は、確かに革新的な物ってなかなか生み出されませんもんね。」 「ああ。まあ、どっちが良いというのは一概に言えないけどな。今の制度のおかけで皆が平等に暮らせているからな。」 「”昔は平等を謳っていてが、実現しようとすらしていなかった”。どの学校でも、一回は聞く言葉ですからね。」 「そうだな。それは確かに一理あるかもしれない。実際、貨幣制度だった頃より貧富の差は縮まったからな。」 「先生は今の制度気に入らないんですか?」 「いや、気に入らないわけじゃない。ただ、頭ごなしに昔は悪かったって言ってる風潮がちょっと嫌いなんだよな。」 「確かに、そういう風潮ありますね。」 「昔の悪いところばかりあげつらって、良いところを見ようともしない。それで果たして良いのだろうか?俺はそう思う。……まあ、こんなことを考えているから、こんな仕事やってるんだろうな、俺は。」 「いや、大事なことだと思いますよ。私は、政府から派遣された人間なんで、あまり疑問視していませんでしたが、そうですよね。悪いところばかりのはずがないですよね。」 「……君にそう言ってもらえるだけで、助かるよ。さあ、ここら辺はもう何も無いようだし、次の場所行くか。」 「そうですね。……先生は本当、物好きですよね。」 「物好きじゃなかったら、こんな仕事してないからな。そういえば、なぜ君がここに派遣されたんだ?上司からの命令か?」 「いえ、自分の意思ですよ。私も物好きですからね。」 「……そうか。」
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