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そのちょっと前のお話
「言いたいことってどうして伝わりにくいのかしら」
前の背中に向かってカミザワが言う。
「会話は無駄な情報が入りがちだからな」
聞き手が本質を捉えることが大切だ、と振り向きながらキミシマはこたえた。
「あら、キミシマくん。ではこういうのはどう?」
天気に反比例してカミザワは上機嫌。
「私が話す情報を的確に要約して」
「突然だな」
「恋と無駄話と小テストは突然始まるものだもの」
この手の発言に特に意味はない。
気にしたら負けだ。
雨で部活も休みだしいいか、とキミシマは頷いた。
「そうね――
今朝は寝坊した。キミシマくんが夢に出てきたせいかも。
通学中はこの前お勧めしてくれた音楽を聴いていたら乗り過ごしたし、
朝練を眺めながら下駄箱に向かっていたらボールがぶつかった。
午前中は前を向いてぼんやりしていたら難問を当てられ、
お昼休みは約束した弁当を作り損ねたから二人で学食に行って、
午後も午前中と同じ過ごし方。
そして放課後は課題があるのに無駄話をしている」
「簡単だ」
キミシマはにやりとした。
「ツイてない一日だった」
「ちゃんと聞いてた?正解はね――」
この時の彼女の表情は伝えることが難しいだろう。
「私はキミシマくんのことが好き」
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