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1.山本先輩
「ともか、あれがね、オリオン座。それでね、あれが、こいぬ座。」
「ふたつだけしかおほしさまないのにせいざなの?」
「そう。それでね、死んだ人はみーんなお空に上がってお星さまになるの。」
「へぇ~。でもママはともかのこしてしんじゃダメだよ?」
「当たり前じゃない。ずーっといるからね。」
母が死んだのは皮肉にもこうして家族三人で天体観測をした帰りだった。高速道路を逆走していた車と事故になり脳震盪を起こし、そのまま亡くなったそうだ。当時三歳だった私は事故のことはまったく覚えていなかったが今でも母が死ぬ前にしたこの話の母の声だけは鮮明に覚えている。
⁂
あ、五組だ…
下駄箱に貼られたクラス名簿の私の名前の下には幼稚園からの親友、坂井 愛の名前があった。
愛と同じじゃん!と心の中でガッツポーズをする。
そして恐る恐る教室に入りどぎまぎしながら自分の席を確認する。
愛はまだ来てないのか…。愛とは幼稚園、小学校、中学校と同じですこし素っ気ないように見えるけど根は優しい私の大親友。
自分の席にストンと座って、一人そわそわして筆箱を出す。教室は自分と同じく高校受験の門をすり抜けてきた知らない顔でいっぱいで心細くなる。
でも、突然その喧騒を一気に遮るような感覚に陥る。
「とーもか!」
私を呼ぶ声がしてパッと振り返ると愛が立っていた。
「愛!」
「まったく、緊張しすぎだって。後ろから見ると体ガチガチだよ?」
「だって…。」
「入学式体育館だから早くいくよ。」
そして私は、私の手を取った愛とともに体育館へ走っていった。
*
教室に戻り全員が席に着くと担任の高橋先生が話し始める。
「五組の担任の高橋です。一年間よろしく!ところで、この後は一つ上の学年の先輩と二人一組になって清掃指導だから。そのあとホームルームな。じゃ、解散。」
二人一組で清掃指導…?二人だけでしゃべらないといけないとかめっちゃ緊張するじゃん…。私にはムリ…。青い顔で落ち込んでいると自分のペアらしき人に呼ばれたらしい。
「北原さんだっけ?私、ペアの山本 真衣だよ。よろしくね!」
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