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「どうして欲しい?」
テナーバスの声が、ぬるりと私の耳に滑り込み、脳を舐めしゃぶっていく。ぞくり、と私の背筋が泡立った。色気のあるその声は頭から、ゆっくり私の腹の底に落ちていく。そしてぶるり、と飢えた子宮を震わせてくれるのだ。
「君は、しっかり味わって欲しいタイプだろう?ゆっくりと、溢れる雫を丁寧に舐め取ってやるさ。君が“もうやめて”と泣き叫ぶくらいじっくりと攻めてあげよう。簡単にいかせてはやらないさ、丁寧に焦らして焦らして捩じ込んであげるとも。なあ、君のナカは、どんな色をしているんだろうね?引き抜いて、掻き回して、君が俺以外の誰のことも考えられないように染め上げてみせるさ。もちろん、君の可愛いココもしっかり食べてあげるさ。ほら、こんなに……俺と一つになれるのを、待ってる」
つん、と男の太い指が、服の上からでも分かるほどしっかり形を主張し始めたわたしの胸の先端を小突いていた。
「あっ……」
ああいやだ。なんて声を出しているのだろう。ただほんの少し胸の先に触れられただけ、つつくと言えるほどのレベルでもないというのに――今の刺激だけで、餓えていた体は完全に歓喜してしまっていた。
ぶるり、と腰が震える。たまらなくなって足をすりあわせれば、ねちょり、と淫猥な音が股間から漏れ出した。もう、ぬるぬると溢れて止まらなくなっている。此処に来る前から危なかったのに、彼と話し始めてからはもう完全に洪水状態だ。欲しい、欲しいと下着の下で淫猥な花弁が震えている。男が欲しい。愛されたい。これ以上布の下で寂しく放置されるなんて耐えられない――ああ、私はなんて、いやらしい女なんだろう。
「それとも、乱暴に……一気に奥まで貫かれたい派、かな?」
彼の手が、そろりと私の下腹部を撫でる。
そこで、もう耐えられないといわんばかりに垂れ下がり、震えている臓器の存在を見抜いたかのように。
「君の要望を聞いてあげてもいいよ。ああ、でも俺は天邪鬼だから……君が嫌だ、という方向の希望ばかり聞いてしまうかもしれない。早く早くと言われれば言われるほど、ゆっくり君を食べたくなってしまうかも。それでもいいなら……」
一緒に来る?と言われて。
その指がぐっと、私の腹の底をほんの少し強く押し込んで。
「ああっ……!」
それだけで、私は絶頂していた。なんてことだろう。まるで彼は魔法使いか何かであるよう。私は服を脱いでもいない。そして此処は、男と女が愛し合うために用意されたベッドでもなんでもない。もっといえば、酒に強い私はまだ酔いさえも回っていないはずだというのに。
こんな屋外で、いつものバーで、直接触られたわけでもないのに――一体どうなってしまったのか、私の身体は。淫獄の悪魔にでも、魅入られたのだろうか。
「……ふ、はぁ……はぁ……百人斬りの男っていうのは、本当、なのかしらね……」
この男に、百人の女が骨抜きにされて食われたというのか。間違いなく、本物。私の身体は一度高みに駆け上ったというのに、再び熱く火照りだしている。むしろ、一度頂点の味を知ってしまったからこそ、その先を知りたいとキュンキュン疼きに疼いてしまっている。
「……満足させてくれる?足らなくて、寂しくて、たまらないのよ」
彼の腕にしなだれかかると、私に夫がいることも何もかもわかっているマスターは、はああ、と盛大なため息を漏らしてくれた。そうだ、彼が見ていたのだった、と思い出す。まあ、見られていたところで今更と言えば今更だが。なんせ、もっと恥ずかしい姿も曝け出したことのある相手だ。
「お盛んなのは結構だがね、あんまり人前でイチャつかんでおくれよ。あと浮気もな。……一応言うだけ言っておく。調子に乗ると痛い目見るぞ、カティア」
少し紅潮した顔で、それでも呆れたように言う彼。その言葉は、殆ど私の耳には入っていなかったのだけど。
子宮の疼きが、なんでもいいから早く飲ませて、と私を急かしている。彼が立ち上がるのと一緒に私も立ち上がった。この後に待っている天国を思って、うっとりと眼を閉じる。――浮気だなんて、もうそんなことはどうだっていい。悪いのはあくまで、私を愛してくれない夫なのだから。
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