ろうそくを吹き消したら

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 お互いの熱で、汗が噴き出す度、甘さの中にスパイスの効いた、バニラの芳香が強くなった。  猛烈な違和感に、勝弘がシーツを掴んで耐え忍んでいると、直樹の指がこじ開けてくる。 「シーツじゃなくて、俺の背中にぎゅっとしてほしいです」  促され、勝弘は着衣の状態ではわからなかった、逞しい彼の背中に、おずおずと腕を回した。  自分から直樹を愛撫する勇気のない勝弘には、これが限界だったが、直樹は満足げに息を吐きだした。  直樹の手腕は、初めてとは思えないほど巧みだった。  勝弘の衣服を楽々とスムーズに剥ぎ取り、誰に教わったわけでもないのに、絶妙な力加減で乳首を揉み、吸い上げ、勝弘にも未知の性感帯を調べ上げていった。 「本当に、初めてかよ……」  息も絶え絶えになりながら文句を言うと、「初めてだよ。勝弘さんと違って、ね」と、音を立てて強く、むしゃぶりついてきた。  勝弘の元カノたちへの嫉妬だということはわかった。そして、彼がそれを、言っても仕方のないことだと捉えていることも。  勝弘は、直樹の頭を抱えて、 「男相手にこんなことするのは、お前が最初で最後」  と誓った。  すると、嬉しそうに彼は、また乳首を舐めた。濡れて外気に晒されると、敏感になっているのがよくわかった。ピン、と勃ち上がって、直樹の指や舌を健気に待ちわびている。  乳首を食みながら、直樹はお互いのペニスをひとまとめにして、扱いた。  そうやって一度射精に至り、脱力した勝弘の肉体を、直樹は最後の仕上げにかかる。  処女孔を慣らすのに使われたのが、彼愛用のボディクリームだと気がついたのは、掻き抱いた首筋からほのかに香るバニラと、同じ匂いがすると感じたからだった。  童貞の、恋人のいない男の部屋には、専用のローションなどない。ボディクリームのテクスチャーは、どうしても滑りが足りない。入り口をべとべとにしても、まだまだ、と、直樹はクリームをさらに指先に取った。  つぷりと押し込まれたのは指先だけだったが、思わず勝弘は、「痛ッ」と小さく呻いた。  大丈夫、と尋ねてくる低い声は、聞こえてこなかった。  恐る恐る、勝弘は自分を組み敷く男の顔を確認し、そして諦めた。  直樹の目は、白衣を着て実験に励む研究者のそれに等しい。  本来のつくりでは考えられない使用方法を試すのだから、慎重に行わなければならないのは当たり前だが、彼の真剣な目つきの理由は別にある。  勝弘の中に埋め込んだ指を動かし、反応を探る。  自分の望む、「勝弘をアナルだけで感じさせる」という結果を求め、試行錯誤しているのだ。  同じく理系の勝弘には、直樹の考えていることが、よくわかった。  でも、それを是とすることはできない。勝弘は、実験用のマウスではない。 「あ、あの、さ、前、前……触って……ッ」  雄の部分を無視せずに、擦ってくれたら、勝弘はだいぶ楽になる。  しかし、直樹は聞き入れずに、指の腹を使い、丹念に孔をほじくり返す。 (絶対、いつか、やり返す……!)  復讐心を燃やすことで現実逃避をしていた勝弘であったが、直樹が腹の奥を、ぐぐ、と押さえた瞬間、目の前で火花が散った。 「あっ、や、やだ……ダメだ、ァ……」  直樹は「ここだ」と囁くと、ピンポイントに突き上げを始める。  すると、押された部分だけではなく、周囲にも痺れるような快感は電線して、隘路全体が、彼の指をきゅうきゅうと締めつけ、求め始めた。 「や、あん、やだ……やめっ」  観察者は、実験動物の言葉が嘘だと判断をして、行為を続ける。  ペニスはガチガチに硬くなっているのを、見抜いているのだ。  指を二本に増やされ、勝弘は思い切り、直樹の背に爪を立てた。ごめん、と謝る余裕もなく、勝弘はじっと耐える。  目を閉じて、直樹に縋っていると、彼の指の動きがよくわかる。  自身の雄を挿入するのに足るだけの開拓を試みているが、その動きには迷いがない。  見つけたばかりの快楽のスイッチを的確にプッシュしながら、二本の指を中で開いたり、絡めたりする。  その手腕は、百戦錬磨の技術である。 (童貞じゃないのかよ……)  どこで学んできたのか、あとで問い詰めようと勝弘は心に決めた。  視界を閉ざした分、嗅覚は敏感だった。  バニラの香りの向こう側から、むわりと直樹自身の体臭が、次第に濃度を増していく。  フェロモンといってもいいだろう、濃い香気に、勝弘は脳までもが犯されていくように感じた。  興奮による汗の臭いのはずなのに、ボディクリームよりもよほど甘く、勝弘は大きく息を吸って酔い痴れる。  
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