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真実とフォーカス
お題『ここだけの話』
『いいかい? フォーカス、ここだけの話よ』
母さんが発した言葉達は、今だに耳元からこびり付いて離してはくれない。
何度目を閉じても、こちらを見て笑いながら息子であるフォーカスを呼ぶ母さんが夢に映り込む。
その後に、あの日が訪れて母さんの『逃げて』と言う言葉に涙する。
まだ6歳のフォーカスが家族と言える人は母さん、たった1人だけだった。
母さんが言った通りに、その場から逃げ出し叔父の家に行く。それから母さんと離れ離れになって早10年の時が経っていた。
そろそろ母さんが失踪した真相を確かめたいと思った。最初は母さんと親しい叔父に聞いてみる事にする。
「なぁ、叔父さん。何で母さんは迎えて来てくれないんだ? もうあれから10年だぞ」
畑の仕事を終えてリビングで寛いでいる叔父に問い詰めた。何時もこの質問をすると毎回上手く交わし、結局何も話してくれない。
今回もはぐらかすかもしれない、それでも母さんの事が知りたい気持ちは募るばかりだ。
「それは・・・・・・フォーカス」
漸く話す気になったのか、叔父はフォーカスの名前を呼ぶ。
やっと母さんの事が聞けると心の準備をしながら叔父が座るソファーの隣に座った。
叔父は一旦下を向いたが、こちらをチラッと見て苦しそうな表情をした。
「お前の母さんは亡くなった。あの日に」
亡くなった? あの日にってやっぱり10年前のーーー。
「何だって」
動揺を隠せずに叔父の胸ぐらを掴んだ。掴んだ手を離そうとはせずに叔父は話を続ける。
「お前だけでも助けようとしたんだろう、お前の家で敵国の兵士に母さんは撃たれたんだ」
お家で、母さんが兵士に撃たれた。
その真実を知るには辛い年頃で、たった1人の家族を亡くしたフォーカスに伝えるのは残酷に近い物だと叔父は思ったらしい。
叔父がフォーカスの為に長年もの葛藤をしてきた事に新しい家族の愛情を感じた。
それとは別に母さんが亡くなった事実に、それ程ダメージを覆っていなかった。
確かに母さんを誰よりも好きなのに10年も過ぎていれば、あの時に死んでいてもおかしくはなかった。
でも、フォーカスにはもしかしたら、という昔の記憶がある。
10年前の母さんとの会話がフォーカスの脳内で鮮明に思い出されてゆく。
『いいかい? フォーカス、ここだけの話よ。今からアナタは叔父の家に行くの。もう直ぐ敵国の兵士が来る、その前にね』
『嫌だ、僕は母さんの傍にいる。ねぇ、母さんも一緒に行こうよ』
『んーん、それは出来ないの。でも母さんはきっとフォーカスの元に帰ってくるから』
お家の中で母さんとフォーカスが話している際に玄関から物音がした。
それが何なのかすぐさま察知した母さんは、フォーカスの手を引っ張り裏口から逃がしたのだった。
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