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「あいつはもう間に合わないかもしれん!」
「マジかよ、次は1時間だぞ」
男子生徒達も心配し始める中、改札口をずっと眺めていた僕の目線の先に彼が映った。
あっ、彼だ!!
下を向いて諦めたかのように足取りが悪い。
目の前にある階段さえ降りれば、電車に辿り着くのに。
息を吸い、心の中で『頑張れ!』と言おうとした。
「まだ間に合いますよ、頑張れ!」
そのつもりが、まさか口に出していたとは思いもよらなかった。
あぁ〜、恥ずかしい!
彼はチラッとこちらを向いて、一瞬だけ目と目が合う。
階段まで来た彼は最後の力を振り絞り、走り出した。
「電車が閉まります。お近くの方はご注意下さい。電車が閉まります」
電車が閉まるアナウンスが流れた。
彼は何とか、電車内に入っていた。何とか間に合ったみたいだ。
良かった、と嬉しさを噛み締める。
僕が座る側を通り過ぎる彼。
ボソッと聞こえた言葉。
「サンキューな」
初めて彼に呼び掛け、彼からお礼を言われた。
たわいのない会話から甘酸っぱい恋が始まりそうな予感がする。
END
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