もう止められない

3/3
前へ
/18ページ
次へ
「あいつはもう間に合わないかもしれん!」 「マジかよ、次は1時間だぞ」  男子生徒達も心配し始める中、改札口をずっと眺めていた僕の目線の先に彼が映った。  あっ、彼だ!!  下を向いて諦めたかのように足取りが悪い。  目の前にある階段さえ降りれば、電車に辿り着くのに。  息を吸い、心の中で『頑張れ!』と言おうとした。 「まだ間に合いますよ、頑張れ!」  そのつもりが、まさか口に出していたとは思いもよらなかった。  あぁ〜、恥ずかしい!  彼はチラッとこちらを向いて、一瞬だけ目と目が合う。  階段まで来た彼は最後の力を振り絞り、走り出した。 「電車が閉まります。お近くの方はご注意下さい。電車が閉まります」  電車が閉まるアナウンスが流れた。  彼は何とか、電車内に入っていた。何とか間に合ったみたいだ。  良かった、と嬉しさを噛み締める。  僕が座る側を通り過ぎる彼。  ボソッと聞こえた言葉。 「サンキューな」  初めて彼に呼び掛け、彼からお礼を言われた。  たわいのない会話から甘酸っぱい恋が始まりそうな予感がする。 END  
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加