初彼岸とおはぎ

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初彼岸とおはぎ

 お題『彼岸』 『お彼岸には春分と秋分があるんだよ』  そう幼い頃、祖母に言われた。  我が家は毎年恒例のおはぎ作りが行われていた。祖母が先頭に立って作っていた。  家にある仏壇の前に、祖母が手作りのおはぎを置く。丸皿におはぎは五個。 「おっはぎ、おっはぎ」  縁側から軽やかな足取りで変な歌を歌う奴がいた。歌詞通りにおはぎを狙おうとしていた。 「おはぎならもう無いぞ」  襖に隠れていた俺が呼びかけた。 「何で!」  案の定、強い当たりで言い返してくる妖狐。 「今年は初彼岸だからな」  妖狐の先には、祖母の写真。着物を着ている昔の祖母が笑っていた。  そんな写真を俺が見つめ、妖狐も俺の視線の先を見つめる。それが仏壇に置かれているという事に気付いた妖狐がある事を言う。 「あの婆さん、等々亡くなったのか」と。 「嗚呼」  一言で妖狐に返した。 「じゃあ、今度のおはぎ担当はお前だな」 「は?」  いきなり突拍子もない言葉を並べられたから、俺は普通に驚く。 「婆さんもおはぎ好きだろ? “ 故人の好きな食べ物を供える ”って言うじゃないか」  無理矢理な合わせ方をしたもんだ、と理由を聞きながら思った。  この妖狐は、とにかくおはぎが好きらしい。白く太筆のように尻尾で合図を出してくる。  はぁ・・・・・・図々しい奴だ。 「なら、お前も手伝って。婆さんはお前の存在知ってたよ。だから沢山おはぎを作ってたんだ」  祖母がお彼岸になると、妖狐が出る事を知っていた。祖母と妖狐の二人っきりでお彼岸を過ごしていたのだろうか。今じゃ何もわからないままだ。 「しゃーないな、任せとけ」  妖狐は胡座をかき、生意気な口振りで応えた。  これからのお彼岸は亡き祖母と妖狐、俺で過ごすのだった。 END
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