やれやれ系男子

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やれやれ系男子

お題『茜空』  秋になると、夏の開放感とは違う。しみじみと寂しさを漂わせる。  全く嫌な気分になる季節だ。  さて、アイツはいつ帰って来るのだろう。 『砂糖が切れたから買って来ます』  たった一言だけのメモを書き置きしていた。そうか、と納得していたものの、今だにアイツは帰って来ない。  先週の金曜日から1週間もの月日が流れていた。 「お前、そいつ。家出か?」  隣の席に居る同僚が作業を止め、椅子ごとこちらを見ていた。  心配症の俺は、書き置きをした日からずっと同僚に話している。  だからこそ、同僚も同じように心配し出したのだろう。 「いや、大丈夫」  同僚に対し、手を前に出して安心を与えた。ふとある事を思い出したのだ。 「え? お前、昨日までは死にかけてたくらい心配してたじゃないかよ?」  言動が180度回転してしまったせいか、同僚は動揺を隠せないみたい。  まあ、散々巻き込んで、こう返されたら誰でも驚くか。かくして俺も先ほど気付いたのだけれども。 「ああ、アイツが方向音痴だったの、忘れてた」  この言葉で同僚は何も言わなくなり、作業を再開した。  早めに仕事を済ませ、定時に帰った。  もうそろそろ帰って来るだろう。  そう思いながら、茜空に染まる夕焼けを眺めていた。  ピンポーン、と玄関からチャイム音が鳴る。ベランダに居た俺は、部屋に戻って玄関へと向かう。 「お帰り」  玄関の鍵を開け、そこに居たのは恋人であるアイツだった。 「ただいま、遅くなってごめんね。はい、砂糖」  恋人が部屋の中に入り、軽く謝ってきた。その時になって、やっと安堵した。  恋人に砂糖が入った、ビニール袋を渡された。
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