花火

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「着いた、着いた」  裕也は満員電車に解放され、嫌な気分も戻る。  それから、なけなしの小銭で買った切符を改札口に入れた。  晶が改札口を出るのを待って駅の出口に向かう。 「それでどこで花火やってるの?」  ふと気になり、晶に花火の場所を聞いてみた。下調べくらいはしているだろうと勝手な想像だった。  晶の足が止まり両手を広げる。 「あー、そこまで調べるのは忘れてた!」 「おい」  案の定、晶は花火がある事を知って俺を誘おうという所までしか思い浮かばなかったらしい。  こんな奴だと知っていたのに、晶に期待した俺が馬鹿だった。  ついツッコミを入れてしまった。  やっと駅の出口に到着する。 「ごめんって」  そう軽く謝る晶。  さて、どうするかとバッグの中から携帯を取り出そうとする。  その瞬間の事だ。  ドンっ!  どこからか、とても大きな音が鳴った。 「今の・・・・・・花火の音しなかった?」  携帯を持ったまま、晶の方に顔を向けた。  晶も同じようにこちらを向いて、目と目が合う。  数秒の沈黙でも、なお次々に大きな音は鳴り続ける。 「だよな! あっちからだ!」  晶はにこやかに笑い、花火の音が鳴る方へ指を差した。 「うん!」  ただただ嬉しそうな晶の顔を見つめる。何だか裕也まで元気な声を出し笑い返した。  携帯をバッグに戻すと突然、晶に腕を掴まれ引っ張られる。  変な声が出そうになるが、口を閉じて晶に身を任せた。  他の人も同じように向かう。そんな人を交わしながら、どんどん前に進む晶。  晶に引っ張られた裕也は必死に他の人を上手く避ける。はぐれないように、と。  花火の音が益々大きくなり、住宅の隙間から花火が見える。  迫力がある花火に胸が踊る。晶の背中が何故か大きく感じた。
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