2人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
日常
ただいま
頭に浮かんだこの言葉は、意味がないから口にはしなかった。扉を開けた先に見えるのはからっぽの家の中。玄関に置いてあるのは私のスニーカーとスリッパだけで、床の白が目立つ。棚には三人分の靴類が入っているが、履く人はいないからもう死んでいる。棚ごと靴も捨ててしまおうか。使われないのはかわいそうだよね。あ、捨てられるのも嫌かな。
スリッパに履き替えて、すぐ右の階段を登り自分の部屋にはいる。この家全体が私の部屋とも言えるからわざわざ来る必要もないけど、前からの癖だからしょうがない。そんな自分がなんだかおかしくてちょっと笑ってみた。
机に鞄を置いて楽な服装に着替える。とくにすることもないので携帯を持って階段を降りた。少し古くなったソファーに座って、テレビをつけてみると夕方のニュースが始まっていた。反射的にキッチンの方を見て、ハッとしてテレビを消す。
あれ、今、なんでハッとしたんだろう。ただニュースが流れただけなのに。
だんだんとお腹がすいてきた。時計を見てみるともう7時になる時間だった。最近時間が進むの早くなった気がする。急に年取ったのかな。なんて馬鹿なことを考えながら、冷蔵庫の中を見てみると、卵1つさえもなかった。そういえば帰りに買い物してこようと思ってたんだった。何か買いに行かなくちゃ。今から作るのは嫌だな。しょうがない、コンビニで済ましてしまおう。今日くらいはいいだろう。そう思って、上着を1枚羽織ってコンビニに出かける。
最近の私の様子を見られたら、5才の女の子に「ボーっと生きてんじゃねーよ!」って言われちゃいそうだな。でも、ゆるして。もう普通に生きる方法がわからなくなっちゃった。
適当にお弁当を買って帰った。出る時はなかったけど、一応いつもの様にポストを確認してみる。すると、1枚白いものが見えた。取り出してみると、広告ではなく差出人の書いていない白い封筒。中には紙ではない個体があるようだった。不思議に思いながら部屋に戻って中身を確認してみると、手のひらくらいの小さい紙が1枚と、十円玉位の石のようなものが入っていた。青や緑、赤に黄色と色々な色に淡く輝く、とても綺麗な物だった。紙には、真ん中に一文だけ書いてあった。
「握り、想いをこめよ。願い叶わん。」
最初のコメントを投稿しよう!