教えて。

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文:嶋田美由 絵:遥  自分は自分の事を悪人だと思っている。  遅刻なんて当たり前。雨が降ってたら休むし、晴れてたら反対の電車に乗る。  心の中ではいつでも誰かをディスってるし、getterでは罵詈雑言の嵐。けれども、それを面白がってフォローしてくる奴がたくさんいて、気付けばフォロワーが2000人を超えていた。  自分の思考が他人を侵食して、他人もみんな悪人になっていく・・・フォロワーが1000人を超えた頃から、そんな事を思う様になった。  日に日に増えていくフォロワーの数に、もしかしたらと黒い希望を見出し始めている。  ブブっ。  スマホが震える。  getterのメッセージ受信を知らせるバイブだ。  道の端により立ち止まると、スマホを起動させる。 ≫聞いて下さい  ダイレクトメッセージに、ただ一言、そう書いてあった。  すかさずメッセージを送る。 ≫どうぞ。  すぐに返信がある。 ≫昨日の事なんですが・・・  そう前置きがあり、用意していたのか、やけに長い文を数分間に渡り受信し続けた。 ≫昨日の事なんですが・・・  そう打ち込んだあと、私はメモ帳に書き留めた言葉を次々と送信した。  了解はとった。  向こうは迷惑なんて思っていないはずだ。だって、自分でそういう話を集めているのだから。  夢中になって送信を続けていると、軽い衝撃と共に頭の上から声が降ってきた。 「おっと、大丈夫?」 「は、はい、すみません・・・あ」 「あれ、君は・・・」 「昨日の・・・」 ab2d3488-d1f2-447e-8232-ad55c1da6941  合コンに来ていた男の人だった。  かっこよくて、嫌味がない優しさで女性陣の心を鷲掴みにしたその人だった。  かく言う私も惹かれた。だって、周りにこんな男性がいた事無かったから。  それなのに数合わせだからと言って、この人は誰ともペアを組もうとしないので、合コン自体は微妙な空気で終了したのだった。 「なにか熱心に打ってたみたいだけど?」 「あ、えっと、あの・・・これは・・・」 「歩きスマホは危ないから気をつけて。って、まあ、僕もたまにやっちゃうんだけどね。ははっ」  茶目っ気たっぷりのその言い方に、私は思わず吹き出す。 「なんだ、ちゃんと笑えるじゃない」 「え?」 「笑ってる顔の方が良いよって話。会社、この辺りなの?」 「あ、はい」 「それなら、また会えそうだね。じゃあね」  私の返事を待たずに、彼は去っていった。  送られてきた内容はこんな感じだ。 『合コンの人数が集まらず、人数合わせだと無理矢理つれて行かれ、その上「私より目立つな」「適当に飲んで食べてろ」などの指令が出る。  そもそも行きたくないのに連れてこられた上に、なんでそんな事言われないといけないのだ。』というもの。  特に念入りにかかれているのは、合コンに連れ出した女の事だった。すでに悪口という範疇を越えて、呪詛となっている。 「・・・おもしろ」  おもわず口から笑いとともにそう漏れた。が、すぐに笑いを引っ込め、スマホをポケットにしまうと、喫茶店を見つけ、迷うことなく店の中へ入っていった。  窓辺の席に陣取ると、ホットカフェラテを注文した。  これのために生きていると言っても過言ではない。  ホットカフェラテを飲みながら人の悪口を聞くのは、今自分が唯一感じられる安寧なのである。  カフェラテが運ばれてくるのを待ってから、再びスマホを起動し、メッセージを最初から読み直した。 「あれ・・・?」  しかし、それは、途中までで終わっていた。  すでに最後のが送信されてから、15分は経過してるのに、だ。  もう一度頭から読み直してみる。  黒々としていて、それはそれは深い闇の中にいることがうかがい知れる。しかし、最後までスクロールしても次が送信されてくることはなかった。  その日の夜、フォロワーが2500人を突破した。 「別れよう」  付き合って3ヶ月。  彼が私の部屋に泊まった日の朝だった。 「・・・え?」  起きたばかりの私の頭は、彼の言葉を理解できずにいた。 「別れよう」  偶然会ってからというもの、ちょこちょこと会うようになり、彼の「付き合おうか」の言葉で男女の関係になった。  それから、3ヶ月。  まわりにばれないように・・・しかし、ちゃんと愛を育んで来たはずだった。 「・・・どうして?」  ようやく絞り出した言葉は、ひどくかすれて弱々しかった。  彼は私を見る事なく身支度をし、こう言った。 「なにか違うんだよ」 「違う? ・・・どういうこと?」  ネクタイを締め終わった彼が、くるりと私を振り返る。その目はひどく冷たくて・・・私はぶるりと震えた。 a121ac42-482c-4731-96c5-2993c22815bd 「君じゃない」  きっぱりとしたその口調は、私という存在を否定した。吸血鬼が朝日にあたりさらさらと灰になるように、私の存在も消えていくように感じる。  さらさら、さらさら。  消えていく。  さらさら、さらさら。  私が・・・消えて・・・いく・・・。  ブブッ。  スマホが着信を知らせた。  道の端により立ち止まると、スマホを起動させる。  ≫大分間が空いてしまいましたが、続き、いいですか  ≫どうぞ。  ≫私はイケメンが大嫌いです。  話が続くと思って待ってみたが、返信が来ないので、自分の返信を待っているのだと気づく。  ≫それで?  ≫あなたは男性ですか? 男性ですよね?  ≫好きなように判断して。性別なんて、あってもなくても世の中は変わらないよ。  また、返信が止まる。 (言いたくなければそれでいい・・・)  スマホをポケットにしまい、歩き始める。  もうすぐ目的地、という時、バイブが着信を知らせた。  道の端によりスマホを起動する。  そこには、自分が待っていた文がずらずらと並んでいて、バイブは数秒ごとに震え続ける。  くるりと目的地に背を向け、喫茶店に入った。  私は許さない。許せない、あの男が。  そして、あの女も許さない。私を無理矢理合コンに連れ出した、あの女。あの女だけは・・・。 49e83398-4d89-47da-a27e-2aae5d9dde0f  今日、あの女は会社を辞めた。寿退社だった。その上、妊娠3ヶ月だった。  問題は、その相手だった。  よほど自慢したかったらしく、彼女は片っ端から相手の写真を見せてまわった。私もそれを見せられ、そして、衝撃を受けた。 991505d7-1673-4d7a-8c74-ca7337dd3f51 1623a090-e63c-4449-b0cc-ef73483c4f04  彼が写っていた。  それはそれは仲良さそうに。  その瞬間、心は機械のように冷静になった。 (今、3ヶ月ということは、私と同じ頃に付き合い始めたのか)  他人事のように自分の境遇を見つめる。  心が凍った。  何も感じない。  ただ・・・さむい・・・さむい・・・・・・さむい・・・・・・・・・。  ≫今日は、ポストにセミをいれました。子供は喜んでいました。今日もいいことをしました。  未だにあのアカウントから、ダイレクトメッセージが飛んでくる。  このところ間隔が短くなって来ているのは気のせいではない。 「・・・ふふ・・・」  彼女からメッセージが来ると、笑いたい衝動にかられる。できれば大声で、まわりの目なんか気にせず大笑いしたい。  でも、自分は悪人だ。  悪人は悪人らしく、ひっそりと黒い希望を広めていくまでだ。  彼女に返信した。  ≫君にとってはグッドエンディングかい? バッドエンディングかい?  それからメッセージは二度と来なくなった。  その日、フォロワーが3000人を超えた。 2b0b5f7a-e665-4790-9c80-f72439786840
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