派遣の彼に恋してます

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 白狐の属する霊性は自然霊。天界に御座します神様と同じく、生まれてから一度も肉体を持ったことがない高級霊となる。そういうわけで、塵芥を集めて作ったような肉体を持つ人間霊より、あたしの霊性はかなり上だ。であるから、下々の者は、あたしの名前の下に「姫」をつけて呼ぶ。つまりあたしは偉いのだ。えへん。  さて、あたしのグレードとか、スタンスがわかってもらったところで自己紹介の続きといこう。  あたしは一年前からこの修業を仰せつかっている。その修業とは、守護霊として栢山沙耶の人間的成長をフォローするとともに、その活動を通じて自分自身の発展向上も目指すことだ。つまり、けっこう忙しい身の上であるのだな。  そんなわけであちこち動き回る便宜上、いつもは市女笠(いちめがさ)壷装束(つぼしょうぞく)といういでたちだ。 76c9751b-5a03-47bf-97b9-88f3a8c6a286  えっ、それでも動きにくそう? そりゃそうだよ。Tシャツとロールアップしたショートパンツにくらべたらね。マジ、イメチェンしたい。したい、したい、したいっ!  いかん。日頃から思い募らせていた欲望を、思わず吐露してしまった。だけど、さすがにイメチェンは無理。なぜなら平安から室町時代にかけての服装は、稲荷神様の好みだからだ。その理由は――  これはあくまで噂なのだけれど、稲荷神様のドカンと飛び出た下腹と、胴長短足の体型を隠すのに都合がいいかららしい。だからと言って、その時代錯誤なスタイルを部下にまで押しつけるのはどうかと思うが。 「純平はてこずっているな。トク殿が相手では、学校の先生も大変だ」  あたしのすぐ隣で、深緋(こきあけ)狩衣(かりぎぬ)を着たイケメンが苦笑いをした。  彼の名は鈴鳴(すずなり)。稲荷神様からの派遣式神で、栢山沙耶のボディガードだ。魂の成熟度を表す霊的年齢は二十歳くらい。年はあたしよりも上だけれど、白狐と式神の霊格差により立場は逆。彼はあたしの部下となる。
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