今のいきなりシリアスな会話

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「教えてあげようかなぁ。どうしようかなぁ。さっきは教室で、かなりキツめに諫められちゃったしぃ」  ええっ! それを今言う。さっきはスルーしたように見えて、実はしっかり根に持っていたんだね。  それに頼まないと教えてくれないの? ああ、もちろんそうですよ、っていう顔してる。ええ、わかりました。あたしは何も知りません。養成所を出たばかりです。(くちばし)が黄色いヒヨコです。役立たずです。教えを乞わないとやっていけない青二才です。 「教えてください。虫をどうするんですか?」  あたしは深々と頭を下げた。だけど、どうしてここで頭を下げる展開になるのかなぁ。意味わかんねー。でも、実務だから教科書には載っていない知識だし、この場はいたしかたなしなのか。とにかく教えてもらわないことには話にならない。 「鈴鳴や、ここへ来て答えておやり」  珠玉姫は、「ホホホ」と笑いながら鈴鳴を手招きした。  ひゃぁ、やられた。あたしが純情こいてたんで、エロ姉さんにしっかり遊ばれたんだ。鈴鳴は日に焼けた頬をピクリと動かすと、こちらへにじり寄ってきた。 「虫は、間者として使います。つまりスパイでござりまする。相手はそうとうに修業を積んでいる様子。妖気を感じ取るのに敏感で、うかつには近づけませぬ。そういう場合に使います。使い魔として仕込んだ虫でなく、何の妖気も持っていない、そこらで拾った小さな羽虫を使うのです。それゆえ、虫飼わずの術、なのでござりまする」  鈴鳴はここで少しだけ咳き込んだ。もちろん霊は病気などしない。これは彼の癖のようなものだ。たぶん前世の因縁から持ってきたものだろうけど。 「し、仕込んでいない虫なのに、使えるんですか?」  うはぁ。あたしったら、緊張しちゃって噛んでるし。おまけに相手は部下なのに、敬語になってるよぉ。しっかりしろよと、エロ姉さんの視線がビシバシ痛いぞっ。 「使役としては、ある程度までですが。相手に送り込んだ虫を回収したら、そこで初めて術をかけます。記憶を探るのです。仕込んでいない虫は、人間の言葉を解しませぬ。ですから、相手がどんなことを話したとか、書いたとか、細かい情報は拾えませぬ。それでもどこに出かけて行って、どんな人物と会ったかくらいは読み取ることができます」 「やるう! 鈴鳴ぃ、でかした!」  あたしは、思わずはしゃいだ声を上げた。すると大声を上げたおかげで、彼に感じていた妙な緊張感がなくなった。珠玉姫はまたしても「ホホホ」と笑い、鈴鳴はきまりの悪そうな苦笑いをする。 「櫻姫様、虫を送り込んだのは麿でごじゃるぞ。ほめるなら、こちらをほめてちょ」  藪蚊介がとぼけた調子の突っ込みをいれてきた。あ、そうか。そうだったね。  あたしが照れて頭を掻くと、栢山家の縁側は人の耳には聞こえない爆笑に包まれた。 489f0a3e-5108-4e04-a3c5-b7973a92b3af
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