呪禁師は、けっこう危険な職業なのです

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「そうすると、自分で、自分を殺してやる。と口走るわけなのですね」  気まずい雰囲気に気づいた沙耶は、ひとつ咳払いをすると、気を取り直すようにピンと姿勢を正した。  そうすると、どうだ。背筋をまっすぐ伸ばしただけで、彼女の体全体からまばゆく輝く黄金色のオーラが放出されたのだ。その量は尋常でなく、あっという間に広間全体が真昼の校庭のように明るくなった。 「もう、私にはどうしようもなくて……」  霊能力がない普通の人間である滝川に、沙耶のオーラは見えない。だが、そんな彼にも、ただならない何かは感じられたようだ。いつしか滝川の表情にも真剣さが戻っている。 「しかもそれだけではなく、実際に行動に出るのです。刃物で手首を切ろうとしたり、高い場所から飛び降りようとしたり。目を離すことができなくなって、私も仕事ができません」 「病院へは行かれましたか?」 「もちろんです。しかし原因不明で。それで困り果てていた時に、こちらの噂を聞きました。お婆さんと孫でやってる呪禁師がいる。古くからの家柄でとても徳が高く、悪霊を一発で祓う強力な術を使う、と」 「それでは滝川様は、奥様の異常な様子が、悪霊の仕業と思われるのですね。何か心当たりでも?」 「い、いえ。しかし、ほかに考えようもなく……」 「ないことはない、と思いますが。私が感じるところによれば、ある方と、きちんと話し合いができていないのでは?」  沙耶は、自分よりもずっと年上のお客に向かって、ちょいと意地悪な物言いをした。まだ霊視すらしていないが、彼女のアンテナに引っかかるものがあったのだ。  一方の滝川は、ズバリと痛いところを突かれたようで、急にそわそわと落ち着きがなくなった。いいぞ、沙耶。あたしがアシストする前に、すでに真実が見えているな。その通り、相手は生霊だ。  あたしはアゲ嬢を睨みつけた。  通常一人の人間には、その人物を守護指導する一人の守護霊が憑くようになっている。彼女の連れ合いの滝川にだって、江戸時代の商人ふうなのが憑いている。影護者(ようごしゃ)と同様にこすっからそう。  ところがアゲ嬢の背後には誰もいない。誰もいないかわりに、彼女の周囲はどす黒い雲に包まれている。アゲ嬢の肉体に取り憑いている霊のパワーがすさまじく、守護霊がこの世とは別の次元に封じ込められてしまっているせいだ。  へええ、けっこうやるじゃん。色情がらみの生霊のくせに、かなりの力技を見せてくれるじゃないか。もしかして、お前は単独犯じゃないな。
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