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「しっかり神鏡を見ろ。そうすれば求め合う波長が二人を引きよせる。そう、こっちだ」
再び沙耶の視線が定まった。
元来あたしと沙耶は相性ピッタリなんだ。もしも沙耶が抱える障害が取り除かれて、二人が完全に一つになることができれば天下無敵。そんじょそこらの悪霊など、一気に粉砕して、パック詰めにして、地獄行きの宅急便に乗せてやることができるのだが。
「ぐああああっ!」
突然、アゲ嬢が異様な叫び声を上げて暴れ始めた。すさまじい勢いで床の上を七転八倒したかと思うと、両手を自分の喉に当て、首の骨も折れよとグイグイ締め上げ始めた。悪霊が身の危険を感じ取り、一気に憎い相手を殺してしまわんとしているようだ。
「ボサッとしない! 己の妻を取り押さえよ。窒息するぞ!」
沙耶は肩越しに振り向くと、恐れおののいて腰を抜かしている滝川を叱咤した。その語気やすさまじく、大の大人でさえひれ伏させる迫力に満ちている。滝川はバネ仕掛けの人形みたいに飛び上ると、大慌てで我が妻に飛びついた。
「ほほう。さすがは栢山の末裔じゃ」
緊急事態にもかかわらず、トクさんも感心顔になった。だが、注意をほかに向けてしまったために、またしても沙耶の意識が乱れた。ほめられたのもつかの間、このあたりは修業が足りない。
ちっ、おかげで守呪クロ失敗だ。少しでも呪禁術の妨害をしようとする、悪霊の罠にはまってしまった。
相手は滝川の前妻。若いバカ女と浮気して、自分を捨てた夫に抱いた復讐心が変化した生霊だ。ところが彼女一人だけの仕業なら、こんなに手間取ることはない。バックアップしている奴がいる。そいつがそうとうな使い手だ。
「鈴鳴、応援している悪霊をなんとかしろ」
命令するやいなや、若武者の式神が駈け出した。そしてスラリと太刀を抜き放つが早いか、豪快な気合いもろともアゲ嬢を包んだ黒雲に斬りかかった。カッと目を見開き、唇を大きくめくり上がらせて、歯をむき出した表情はまさしく鬼だ。
「ぎゃああっ!」
鈴鳴の太刀が振り下ろされるや、断末魔の叫びとともに、ぴたりとアゲ嬢の動きが止まった。そしてそのまま仰向けになって引っくり返る。彼女を包んでいた黒雲が、痛手を負って離れたのだ。
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