呪禁師は、けっこう危険な職業なのです

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 広間のあちらこちらで、爆竹もどきの破裂音がした。アゲ嬢から引き離された悪霊が、苦し紛れにすさまじいラップ音を鳴らしているのだ。  悪霊は逃げ場を求めて栢山家の広間を飛び回り出した。ところが逃げるに逃げられない。それもそのはず、藪蚊介が広間にしっかり結界を張り、悪霊の逃げ場をふさいでいた。 「あとは麿におまかせあれ。捕えて締め上げますぞよ」 「櫻姫、今のうちに沙耶ちゃんと、チャチャッと守呪クロしちゃいなさい」  珠玉姫が巨大な胸を揺らしながら叫んだ。わかってるって。エロ姉さんに言われなくてもやってる。だけど、いまいち沙耶の意識をつかめないんだよ。沈着冷静を絵に描いたようなあたしの心理にも、しだいに焦りが募ってくる。 「もう一度トライしよう。沙耶、こっちを向いて」  あたしは再び両手を広げた。そして沙耶を迎え入れる態勢を取る。沙耶も姿勢を正して合掌。二度目の守呪クロにチャレンジするが――  くそっ、だめだ。しっかり念じているようでも、彼女の意識のどこかがよそ見をしてる。ぶっ倒れて意識不明になったアゲ嬢と、立て続けに鳴るラップ音に注意を奪われているせいだ。 「ええい。沙耶、もう少しじゃのに。櫻姫様の言葉に耳を澄ませ。精神集中じゃ!」  トクさんが、じれったそうに大声を上げた。わかってる。沙耶だって、そんなに喚かれなくてもわかってるから。だから沙耶、焦るな。こっちを見て。あたしとひとつになろう。  三度目の守呪クロにチャレンジする。もう失敗はできない。  アゲ嬢は白目をむいて痙攣を起こしている。げげっ、口から泡まで吹き出した。バックアップしていた悪霊は離れたが、彼女の体に残った生霊が最後の抵抗を始めたのだ。まずい。ますます沙耶の集中力が乱れていく。 「だめよ、私にはできない!」  ついに沙耶が悲鳴を上げた。その言葉を聞くや否や、トクさんが行動を起こした。一瞬のうちに珠玉姫と守呪クロすると、アゲ嬢に向かって強力なオーラの砲弾を放ったのだ。生霊はアゲ嬢の肉体からはじき出され、悪霊は一瞬のうちに消滅した。
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