呪禁師は、けっこう危険な職業なのです

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呪禁師は、けっこう危険な職業なのです

 栢山家の母屋には、約二十畳の広間がある。床はすべて板張りで、壁際には、横幅がおよそ四メートル、高さが二メートル半はあろうかという超巨大な神棚が祀られてある。  その正面に、額当(ぬかあて)表衣(うわぎ)切袴(きりばかま)と、神職の常装に身を包んだ沙耶が座る。巫女姿のトクさんは少し離れた脇に待機し、孫娘のアシストに回る。一年前、つまりあたしが沙耶の守護霊となる特命を受けるまで、二人の位置関係は逆だった。  トクさんはもうじき引退を考えている。呪禁の仕事は、己の体内で作り出されるオーラを多量に消費するため、極度の体力と集中力を必要とするからだ。  当然、年齢的にそういつまでもできるものではなく、そろそろ後継者への代替わりを考えなければならない。  ところが悲しいことに、トクさんの娘たちはまったく使い物にならなかった。このままでは、数百年も続いた栢山家の呪禁の歴史が途絶えてしまう。ここでトクさんは、天界におわします稲荷神様に、ある打診を試みた。 「孫に相性ピッタリの、優秀な白狐を授けてちょうだいませませ。そして栢山家に代々伝わる宝玉、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を使わせることをお許しくださいませませぇ」  隔世遺伝ということなのだろうか。孫娘の沙耶は、ある種の問題を抱えているが、生まれつき呪禁の能力が高かったのだ。  しばらく待つのち、天界からOKの返事が来た。つまり、霊的な補聴器となる宝玉の使用を許可するとともに、白狐の養成所である天学塾からあたしが派遣されたのだ。  喜び勇んだトクさんは、スパッと娘たちへの代替わりをあきらめ、沙耶に望みを託すことにした。  ここで沙耶の呪禁能力について語っておこう。そして彼女が抱えている、ある種の問題についても。  珠玉姫の分析によれば、加持、祈祷を行う霊能者として、沙耶の資質はエース級だそうだ。それもただのエースではなく、日本全国を探しても並ぶ者がいないほどの霊的パワーを持っている、ウルトラ・スーパー・エースだという。  だが、彼女には致命的な欠陥があった。そのため、いまだにこんな九州の隅っこの、田舎の観光地にくすぶっている。  沙耶が抱える致命的な欠陥。それは彼女の霊的な不均衛だ。  もちろん、普通の人間には霊の姿は見えず、声も聞こえない。それは今生におけるその人物の霊的成長に、直接的な霊能力が必要ないからだ。いらないものは与えない。むしろ必要なものですら十分には与えず、本人の努力を促すのが天界のルールだ。
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