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「…ナ、ミーナ」
苛立ったように名を呼ばれ、肩をドンと押された。ぼんやり歩いてた美奈はよろけて、そのまま押された先の壁に背中がぶち当たる。顔を上げると、間近に響の顔があった。
「何度も呼んだんだけど」
美奈の両肩の隣に手をついて、響は不機嫌に言う。
「ご、ごめん…」
「ミーナ、謝ってばっかり」
そんな言葉が欲しいんじゃないとばかりに、響は口を尖らせる。刺々しい態度にまた謝りそうになって、美奈は口をつぐんだ。
「どうせ、ロクなこと考えてなかったでしょ」
「そんなこと…それより、離して。響」
所謂壁ドンの状況は、家庭裁判所の古い木造建築にはふさわしくないと思うのだ。けれど、やめてと言えば続行し、離せと言えば、美奈に対する拘束を強めるのが響という男だ。
「俺の声も聞こえないくらい真剣に何考えてたの?」
左手の位置はそのままに、右手を美奈の顎に置いて響が聞く。今にもキスでもされそうなシチュに、美奈の顔はかああっと赤みを増した。
「な、何でもない…」
「今日、バレンタインだよ」
と響に言われて、イベントデーだったのを思い出す。そんな浮かれた日だと気づく余裕もなかった、つまり。
(ちょ、チョコもプレゼントも何もない…っ)
それどころか、別れを考えてしまったなんて言えない、絶対言えない。
「ミーナからチョコももらえないの? 俺」
「ご、ごめ…」
「だーから。謝るくらいなら、今ここでキスして」
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