本当の気持ち

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「あなた…?」 「今度旅でも行かないか、美奈」  機嫌がいいのか、ワインを傾けながら、雄大は美奈にそんな提案をする。新婚旅行で行ったヨーロッパと、毎年夏に雄大の気に入りのホテルがある北海道へ。美奈と雄大の旅行と言えば、それくらいだ。 「北海道ですか?」 「いや。ちょっと仕事もあって、島根に行かなきゃいけない。出雲大社にでも行かないか?」 「出雲って…縁結びですよね」  独身の人ならともかく、結婚後の旅行としては、どうなのだろう。美奈が不思議に思って雄大を見上げると、雄大は照れくさそうに笑って続ける。 「ああ。そうだな。だから…君との縁を結び直したいんだ、美奈」 「……」 「浮気なんかしたのは、本当に僕が愚かだった、反省してるよ。今は彼女とも逢っていない。僕は君を失いたくないんだ」  何故その台詞を、浮気がバレたその日に言ってくれなかったのか。  開き直った態度で、自己を正当化し、浮気を正当化した男と同じ口からこぼれ出たとは信じられない。 (そしたら、響に会いに行ったりしなかった…)  何もかももう遅い。噛み合わなくなった歯車は、どちらか一方の努力では、どうしようもないのだ。  雄大の言葉は、テレビから流れるニュースのように、無機質に無感動に美奈の心を通りすぎていった。
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