曇った真実

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「ご、ごめんなさい…」  嘘もつけない美奈には謝るしか出来ない。また雄大の独占欲のスイッチが入って、無理やり抱きしめられやしないか、美奈は一瞬びくっとなったが、雄大の手はただ美奈の頬を滑っただけだ。 「僕が、悪いよね。しっかり美奈をつなぎとめておかなかったから」 「あ、なた…」 「それでも僕は君とやり直したい。身勝手だと呆れるだろうが、僕だって一生を共にする相手として君を選んだんだ。まだまだ先は長いよ。うんざりするくらいね。その間に君の気持ちを取り戻す甲斐性くらいは持ってるつもりだ。だから、美奈、別れるなんて言わないでくれ」  美奈の瞳にまた新たな水泡が浮かぶ。今度は、響のためではなかった。自信家の雄大らしいセリフだが、随所に美奈への敬意も愛情も感じられる。 「…でも」  雄大の思いに流されそうになる。本当に信じてもいいのだろうか。あそこまでぐちゃぐちゃに壊してしまった関係を、再び構築し直すことなんて可能なのだろうか。 「結論を急ぐことはないだろ。君の気持ちが固まるまで、僕は君に触れない。早く美奈の心を取り戻したくて、僕も焦りすぎていたんだ。逆効果なのにね」 「……」  どうしたんだろう。今日の夫は普段とまるで違う。何か、あったのだろうか。驚きに、美奈は相槌を打つことさえ忘れてしまう。  いや、でも…と美奈は思う。見合いをして結婚を決めた頃の雄大は、こんな感じだった。嫌味のない自信に溢れて、でも相手の気持ちも立場も思いやれる…。  こんな人ならモテるだろうに、どうして自分なんかと見合いをしたのかと、美奈が首を傾げる程だった。  だが、雄大がスーツのポケットから取り出し、テーブルの上に置いたものに、美奈は潤んでいた目を瞠った。 「そしたら、もうこんなもの飲むのはやめてくれるね」  美奈と雄大のちょうど中間に置かれたもの、それは美奈が飲んでたピルだった。
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