許されない再会

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許されない再会

「――やっぱりやめて」  唇が触れる瞬間に漏れでた言葉は、たぎってしまった男の欲望を止めるには、余りに弱々しい。逆に、彼の嗜虐趣味に火をつけてしまっただけかもしれない。  重なる寸前だった唇が遠ざかって、両端が吊り上げられる。意地の悪い笑顔に、過去散々嬲られたことを思い出したが、何もかももう遅い。 「やめて…ねえ。こんなとこまでついてきておいて」 男はわざと悠然と部屋を見回した。 趣味がいいとは言えないピンクの壁紙に、清潔感など皆無の中央のベッド。最近は、もっとおしゃれで設備も良いホテルもあるらしいが、美奈が連れて来られたのは、昔ながらの垢抜けない雰囲気のラブホテルだ。 何度もこんな部屋で彼と抱き合った。それを思い出させるために、わざとこんな場所を選んだのかと思うほどに、趣味の悪いセレクトだ。 だが、彼の言う通り、こんなところにのこのこついて来たのは、自分なのだ。 「ど、どうかしてたの」 美奈は白い財布から一万円を抜き取って、ベッドサイドのテーブルに置く。ホテル代のつもりだった。そして、それでこの事態は精算出来たとばかり、バックを抱えて部屋から出ようとする。 (早く帰らなきゃ) 美奈の頭にあるのはそのことだけだった。 男の体の脇をすり抜け、ドアに手を掛ける。が、逃がしてくれるはずなどなかった。 「誰が帰っていいっていった?」
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