狂った絆

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狂った絆

「どこに行ってた、どれだけ心配したと思ってるんだ」  美奈がひとり、おずおずと家のドアを開けると、玄関には怖い顔をして、仁王立ちになっている雄大がいた。  無理もなかった。昼前から連絡が取れなくなった妻が、夜半になってひょっこり帰ってきたのだから。 「ごめんなさい…」  けれど、謝るだけで終わりにしてはいけない。雄大に言わなければならないことがある。 「響に会ってました」  か細い声で、しかし堂々と美奈に浮気を告白され、雄大はカッとなった。無論薫の話を聞いた時から、それは予想していた。しかし、実際妻の口から聞くのとでは、全く重みが違う。  ばしっ、と雄大の掌が美奈の頬をはる。美奈の身体は、斜め前方によろけ、鼓膜がじんじん痺れるほどの衝撃だった。だが、美奈は痛いともひどいとも言わず、ただ赤く腫れ上がった頬に手を当てていた。無抵抗はつまり、罪を認めたということだ。妻の態度に雄大は、更に苛立ちを募らせる。 「何が不満だ」  美奈に対して雄大は最大限の譲歩と思いやりを見せてきたつもりだ。過ちは許し、自分は浮気相手を精算し、優しい言葉で慈しみ、そして美奈の気持ちが落ち着くまでは…と、夫婦の営みも我慢している。これだけ自分が愛情を掛けているのに、何故美奈は他の男の方に走るのか。 「あんな男の何処がいいんだ、美奈」  しかし、雄大の問に美奈は答えず、毅然と切り出した。 「別れてください」  
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