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裁きの日
ひと月後の離婚調停の日、雄大は現れなかった。本来なら、調停委員に夫婦それぞれが別個に話をし、その中でお互い合意出来る点を探っていく場なのだが、来ない以上は話し合いも何もない。
美奈の相談で終わってしまった形だ。
そして2回めも3回めも、雄大は来なかった。3回めの今日は雪がちらつく寒い日。雄大の家を出てから、もう3ヶ月以上も経ってしまっている。
「このままずっと来ないとどうなるんですか?」
美奈は去り際に女性の調停委員に尋ねてみる。美奈よりも若そうな調停委員は、美奈に同情したように眉を下げてから言った。
「調停不成立ということになり、裁判に持ち込まれるケースになりますね」
(裁判…)
雄大の時間稼ぎなのだろうか。美奈は慰謝料も何も望んではいない。ただ、雄大の籍から自分の籍を抜くことだけが要求だ。それなのに、裁判なんておおごとになるなんて。
重たい足を引きずって、調停室の外に出ると響が美奈のコートを持って立ってた。美奈を心配して向こうでの仕事を休んで来てくれたのだ。
「お待たせ、ごめんね」
「おっさん、また来なかったんだ。オトナ気ねえなあ」
出てきた時の美奈の表情で全てを悟った響が呟く。
せっかく来てもらったのに、何も進んでない現実が申し訳ない。美奈はつい響に謝ってしまう。後ろ暗い気持ちは、この調停が続く限り続くだろう。じりじりする状況に、美奈と響の関係が悪化することを雄大は狙ってるとしか思えない。
(負けたくない)
そう思うのだが、現実、雄大の家を出た頃、安易に信じられた響との未来が見えにくくなってる気がする。響も最近先のことを語らなくなった。響には美奈と違って、柵は何もないのだ。
(こんな面倒な女やめて、他に行こうって響が思っても、仕方ないんだよね)
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