新たな快楽

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新たな快楽

「本当に来たんだ」 響は何処か他人ごとのように言って、美奈の姿に目を細めた。彼の腰掛けたベッドと毒々しい壁の色に、先日の忌まわしい思い出が蘇る。ご丁寧に、同じ部屋に呼び出さなくてもいいと思うのだが。 「来い、って言ったの貴方じゃない」 不本意だったと精一杯強がって、美奈は彼の前に立った。 来週の金曜、またここに来て。先日の再会の日の別れ際の傍若無人な誘いを断ることは、無論出来たのかもしれない。けれど、響が撮った美奈の淫らな写真をどう扱うかわからない。だから、命令には従わなければいけない。そう言い聞かせながら、美奈は支度をし、雄大への外出の言い訳を考えた。 「今日はどうするの? 主人が帰ってくるまでには帰りたいの」 「何時?」 「ここを8時には出たいわ」 美奈が言うと、響は腕時計をちらと見る。今は金曜の夕方4時。今日の響は、スーツを着ておらず、ブルーをベースにしたチェックのシャツに、カーゴパンツ、それに重たそうな茶色のブーツ。アウトドアブランドの流行に左右されない、しっかりした縫製の服を以前の響は好んで着てた。性的嗜好は変化しても、私服の趣味は変わってないらしい。 今日は仕事は休みなのだろうか…。美奈はそんなことを考えて、慌てて打ち消す。 (今の響が何をしてるかなんて、自分には関係ない) 一刻も早く満足してもらって、帰るだけだ。 「まず、何をすればいいか言って」 紋切り調で言うと、響は吹き出す。 「それじゃ、まるで出張サービスじゃん」 「私にとっては、ビジネスみたいなものなの」 望んでしてるわけじゃないことを、美奈は殊更に強調した。必死に自分を保ってないと怖いのだ。響との行為は、自分が自分でなくなるような、知らない世界に連れて行かれるような、そんな漠然とした不安を美奈に抱かせる。 美奈のつっけんどんな態度に、響は鼻白んだように浅く息を吐く。じろりと美奈の心底を覗くように美奈を見ていたが、しばらくしてから冷たい声で言った。 「じゃあ、全部脱いで」
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