本当の気持ち

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本当の気持ち

もうじき梅雨入りしそうなある6月の日、美奈は久しぶりに学生時代の友人と会った。女の子ばかり4人で、全員家庭があって、美奈以外は子どももいる。ホテルでランチのあとに、買い物をし、またカフェで話し込んだ。 夫の浮気のことなんて、もちろん友人たちには話せない。元々美奈は、場を仕切るようなタイプでもないから、みんなの話に耳を傾けていた。話題の中心は子どもの話だ。悩みと自慢の混ざり合った。 子育てって大変そう。けれど、自分がいつかその責を担う日が来るのだろうか。こんな破綻しかけてる夫婦関係の中で。 「でも、美奈はいいよね。子どもまだだし、ゆっくり出来て」 季節に合わせた緑鮮やかなネイルの施された美奈の指先を、一様に褒めてくれたあとで、ひとりがこう言い出した。 「うんうん、うちは今日は実家の母に頼んできた」 「赤ちゃんいたら、ネイルとか無理だしね」 「無理無理。おむつひとつ変えられらないよ」 責めてるつもりはないのだろうが、口々に言われて、慌てて手を膝の上に置き、拳を握ってしまった。…そんなものなのだろうか。 価値観の違い、子どもがいるいないことでの生活の隔たりを浮き彫りにされて、そのあとは余り話さないまま、みんなと別れて電車に乗った。既に夕方のラッシュが始まり出していた。突然雨も降りだしたため、湿気を多く孕んだ車内は空気も生ぬるく、脚に当たる濡れた傘の感触も気持ち悪い。 更に…だ。さっきから、美奈の臀部に人の手が触れている。最初は、気のせいかと思ったそれは、次第にはっきりと強く、スカートの上から美奈のお尻を触り出している。 (…ち、痴漢?) どうしよう。身を捩ってみても、その手は執拗に美奈を追いかけてくる。もう、疑いようもなかった。 声をあげようとしたその瞬間だった。 「何、やってんの?」 強い言葉が投げかけられたと同時に、美奈の腕は引っ張られ、痴漢の男の前から救出される。 聞き覚えのある声に驚いて、美奈は顔を上げ息を飲んだ。
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