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夜を越えて
(なんでこんなに人が多いのかな…)
スーツケースを引きながら、美奈はうんざりしながらホームを目指す。とっくにラッシュのピークは過ぎた午後9時過ぎの東京駅。それでもまだ、人の流れは途絶えない。
今夜から雄大と島根に3泊3日の小旅行だ。雄大が仕事の終わりに東京駅で待ち合わせて、そのまま寝台車で明日の朝、出雲に着く計画になっている。
(ああ、もう丸の内北口って何処?)
東京駅は慣れない美奈には、雄大の指定した場所がなかなかわかりにくい。さっきからスーツケースを引きずって右往左往だ。そのとき、美奈のスマホが着信を告げた。
(雄大さん?)
美奈は救われた思いで、ポケットからスマホを取り出す。しかし、ディスプレイは別の
名前を映しだしていた。
(響…)
何の用だろう。美奈はおずおずと電話に出る。
「ミーナ? さっきからウロウロして何処行きたいの?」
「え…」
今の自分を見ているかのような、響のからかいに美奈は絶句する。え、何、どういうこと。
キョロキョロすると、スマホ越しにくすっと笑われた。
「あーまだ気づいてないのか。今、そこ行くから待ってて」
プチッと通話は一方的に切れた。美奈にはわけがわからない。ぽかんとしてると、今度は響の生の声がした。
「ミーナ、こっち」
声のする方に反射的に振り返ると、グレーのパーカーに、ブルーのジーンズ、ボストンバックを提げた響がいた。
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