仕組まれた邂逅

1/17
3912人が本棚に入れています
本棚に追加
/206ページ

仕組まれた邂逅

「ミーナ」  美奈の心に彼の声が響く。ひどいことばっかり要求するくせに。彼の行為は陵辱といって差し支えないのに、どうして美奈を呼ぶ声だけは優しく思えるんだろう。 「いや、です…」  美奈がこんなに明確に、雄大に否を突きつけたのは初めてかもしれない。世間知らずで甘ったれな妻ひとりくらい、簡単に説得出来ると見くびってた雄大の眉が、焦りと怒りに歪む。 「美奈、わかってるの? 相手は誠実さも愛情もないんだよ」 「そ、そんなの…」  何故雄大にわかるのか。いや、美奈にもわからない。時折、「好き」なんてありふれた言葉より強く激しく、響の思いを感じることがある。でも、美奈の錯覚かもしれない。あやふやで曖昧で、得体が知れなくて。  でも、響の真意がどこにあろうと、どうてもいいような気さえする。 「それでも、いいんです…」  語尾に嗚咽が混じる。泣きだした美奈を、雄大は面倒くさそうに眺めた。 「美奈」  ぐいと手の甲で涙を拭うと、雄大は美奈を抱きしめてきた。情緒的なそれでなく、美奈を遮二無二捕まえようとするような抱き方で、美奈の自由を奪ってから、強引に唇を塞がれる。 「や…っ」 「君は僕の妻だろう?」  大義名分をかざされると、美奈は抵抗出来なくなる。腕の中で人形のようにおとなしくなった美奈を、雄大はゆっくりと畳に押し倒した。後頭部に腕を敷かれ、上から被さるようにキスを重ねられる。抵抗もしないが、応じもしない美奈に、雄大は執拗に唇を食み、舌を絡める。 「ん、んん…っ」  受け入れたくないと思うのに、どうして息遣いに甘ったるい声が混じってしまうのか。慌てて美奈が口元を覆うと、雄大は気を良くしたのか目を細めた。
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!