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訣別
「ひとつ確かめていいか、美奈」
低い声で問われて、美奈は生唾を飲みながら、頷く。
「もう…倉田くんとは会ってないよね」
「はい」
「そう…。じゃあ、これはやっぱり僕との妊娠回避のためだね。凄くショックだったよ、美奈」
「ま、まだ気持ちの整理がついてないのに、あなたとの子どもを身ごもっても…と思って。でも、何も相談もせずに、こういうことをしたのは反省します」
「うん、ある意味君らしい行動だと思ったよ。お陰で僕も目が覚めたんだ。僕のやってることは、美奈の気持ちを遠ざけてるだけだ、って」
「ごめん、なさい…」
自分のしたことがどれほど彼を傷つけたのか。浅はかさに腹が立つ。それでも美奈の気持ちを慮ってくれる雄大に、美奈の涙腺は脆くも壊れた。
「触れない、と言ったけどこれくらいはいいか?」
わざわざ美奈の許可を取ってから、美奈の髪を撫でる。何度も頭頂部と毛先を往復されるうちに、美奈の心も静かになだらかになっていく。
その夜、雄大の隣で眠りながら、美奈は響の夢を見た。
~★~☆~★~☆~★~
「嘘つきっ」
美奈は一言そう詰って、響に背中を向ける。
怒りと悲しみが混在してて、感情がコントロール出来ない。今はこれ以上、話さない方がいいと思った。炬燵から抜けると、一直線に部屋のドアのノブに手を掛ける。
「待って」
けれど、美奈の身体が外にでる前に、響の手が美奈の腕を掴み、そのまま自分の胸元に引き寄せる。背中から抱きしめられると、タバコの香りが美奈を包む。さっきまでぐらぐら沸き立ってた怒りが、少しだけ落ち着いたように思えた。
「…離して、響」
「俺の話聞いてくれる、って約束するなら」
「…そういうの、ずるい」
「うん」
認めてしまうところが更に狡猾だ。それでも響は要求も引っ込めなければ、腕の力も弱めない。結局美奈が折れた。
「…わかった、まだ帰らないから」
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